【AI・HALL共催公演】
ミクニヤナイハラプロジェクトvol.7『静かな一日』
平成25年2月9日(土)に、ミクニヤナイハラプロジェクトvol.7『静かな一日』を上演します。
ミクニヤナイハラプロジェクトは、ダンスカンパニー/Nibroll(ニブロール)の代表・振付家として活躍する矢内原美邦さんが始めた演劇プロジェクトです。彼女の台詞がもつドライブ感、鮮やかさ、ポジティブさが高く評価され、前作『前向き! タイモン』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞しました。今作の『静かな一日』は、この戯曲賞受賞をきっかけに、あらためて演劇の台詞と演出について考え、新たな地平を目指した新作です。
スタジオでの稽古前に、矢内原美邦さんにお話を伺いました。
(聞き手/アイホール ディレクター 小倉由佳子)
—————ミクニヤナイハラプロジェクトの関西での公演は、『前向き! タイモン』の京都公演に続き2回目となりますね。Nibroll [ *1 ] の「振付家・矢内原さん」というイメージが強いかもしれませんが、演劇作品をつくろうと思われたきっかけはどんなところからだったのでしょうか。
たまたまなんですけど…(笑)。2002年、
ACC(Asian Cultural Council)の助成金でニューヨークに1年間滞在し、帰って来た後に、吉祥寺シアターのこけら落とし公演に誘われました。ニューヨーク滞在中に書いた、たくさんのテキストがあったので「演劇をやってみたい」と劇場プロデューサーに相談したところ、「やろう、やろう! 」ということになり、ミクニヤナイハラプロジェクトが始まりました。そのときにつくった作品が『3年2組』です。
この『3年2組』に、たくさんお客さんが入って評価してくださる方もいて、みんな有頂天になってしまいました(笑)。それで、2作目として発表した『青ノ鳥』が岸田戯曲賞の最終候補に残り、NHKシアター・コレクションにも選ばれて再演もしました。英訳もされて、ニューヨークを拠点に活動する劇団「WITNESS RELOCATION」によってリーディングも上演されました。
この時は、残念ながら岸田戯曲賞は獲れなかったんですけど、井上ひさしさんが褒めてくださいました。途中まではすごく良かったよ、って(笑)。「後半の書き込みが足りない」とは言われたんですけど、演劇を続けていこうと思いました。
あと、宮沢章夫さん作・演出の『東京/不在/ハムレット』という舞台に参加した時に、「言葉と身体」についてよく話をしました。言葉の側からは、私は何もやっていないと気づかされて、もっとちゃんと言葉を使ってやってみたいと思いました。太田省吾さんの『水の駅』を観ても、演劇なのに言葉を全く使わない、でもそこには「言葉がある」ということを感じました。自分の勉強不足を思い知り、ここ、30代でちゃんと言葉のことをやっておかないと、40代は見えてこないなと思いました。それで『青ノ鳥』以降ぐらいから、真剣に演劇に取り組み始めたんですよ。
—————岸田戯曲賞受賞以降、なにか変化はありましたか。
特にないです(笑)。ただ、これまでは「(私は)演出家ではないし、あれは演劇じゃない」と言う人が多かったんですが、この受賞を契機に、いろんな方に励まされ、「演劇をやっているんだね」という認識をしてもらえるようになりました。それはすごく大きかったですね。平田オリザさんが芸術監督をされている、こまばアゴラ劇場のサマーフェスティバルでディレクターをさせていただいたり、坂手洋二さんが主宰される燐光群に振付で参加したりするなかで、演出だけではない様々なことを学びとることができました。
ダンスに比べて演劇の方がいろんな協会があって、ネットワークがあるというか繋がりやすいと思いました。どのようにネットワークをつくっていくか、若手を育てていくかを考えられる。ダンスが立ち遅れている部分があると気づきました。私としても、今、指輪ホテルの羊屋白玉さんと一緒に、アジア女性演劇人会議
[ *2 ] をまた立ち上げて活発化するためにみなさんのお力を借りて動き始めています。
—————過剰なスピードの台詞、情報量の多さなどが特色としてよく挙げられますが、今回は「静かな演劇」に挑戦するとお聞きしました。
静かにはならないと思います(笑)。が、今までとは違うと思います。早口で台詞がきちんと聞き取れないっていうのは、私の我慢が足りないんですよね。たぶん、言葉を信用しきれてないんでしょうね。やっているうちに、言葉よりも身体が先行していくというか、言葉なんかに頼ってられるか、みたいな(笑)。それをなるべく抑えて、自分で書いた言葉を信じて今回はやっていこうと思います。
戯曲を書いているときは、自分のなかにイメージだけがあって、想像の中で身体が向こうのほうでシャーンってものすごい速さで動いたりとか、グワーンってなってたりします。稽古が始まってみると、俳優はそんなことはもちろんできなくて、「遅い! 」ってなっちゃうんですよね(笑)。そうすると書いたときのイメージに近づけようとして、台詞回しが早くなっちゃうんですけど、これは自分のイメージなので、他の人に伝えると早すぎたり、なに言ってるのか分からないというようになっちゃうので、なるべく抑えながら、今回はイメージよりも言葉を信じてやってみようかと思っています。
あと、これまでたくさんの俳優に出てもらうことが多かったんですが、今回は2人だけの出演者です。2人とも今までやったことのない初顔合わせの俳優です。
今作は夫婦の話です。はじめは、普通に夫婦が生活しているんですけど、そのうち夢の世界に入り込んでいって…、見ているうちに妻の方がすでに死んでいるのではないかというような状況になっていき、夫がひとりになる。
「絶望をどういうふうに内側に抱えていくか」ということがひとつのテーマになっています。今の日本の状態を考えると、「絶望を内側に抱えた人が実在する」のは事実だし、そこから書いてみようと思いました。多くの人がその絶望というものに対して興味をもってくれると思う。それはいろんな意味で、否定する人もいると思うし、なんて悲しいんだという人もいるだろうし、もちろん、批判する人もいると思います。でも、そうやって、「また朝がくる、また一日がくる」ということを描ければいいと思って取り組んでいます。
舞台のなかでは、妻が「もう死んでいるんだね」というような直接的な言葉は出て来なくて、見ているとなんとなく分かってくる。いろいろ取材をして、家族を亡くした人たちからは、やっぱり、その人が「死にました」とか「亡くなりました」という言葉はあまり出て来なくて、「いなくなった」とか「さらわれた」というような言い方をされたんですね。それらの言葉を聞いたときに、「死んだんだね」みたいな言葉は使いたくなかった。戯曲では、過去形になったり、現在形になったりするように書いています。見ている人にとっては、どこが過去でどこが現在かというのは入り交じっているんですが、設定が夢の世界なので、うまく混じり合っていると思います。
〈参考映像〉
2012年に横浜と東京で開催された展覧会でのoff Nibroll
[ *3 ] のインスタレーション
『a quiet day』が、今作の舞台美術のベースとなっています。
*1:Nibroll・・・1997年結成。振付家・矢内原美邦を中心に、 映像作家、音楽家、美術作家とともに、舞台作品を発表するダンスカンパニー。
http://www.nibroll.com/
*2:アジア女性演劇人会議・・・劇作家・演出家の故・如月小春氏を中心に、1992年に発足した組織。如月氏が、1988年に開催された
第1回国際女性劇作家大会へ参加した際に、国際交流の中でも特にアジア人同士の継続した交流の必要性を感じ、
同会議で知り合ったアジアの女性劇作家たちを招聘するためにスタートしたもの。
*3:off Nibroll・・・映像作家・高橋啓祐と振付家・矢内原美邦が、身体と映像がつくりだす空間をより追求するために立ち上げたユニット。
(2013年1月 急な坂スタジオにて)
【AI・HALL共催公演】
ミクニヤナイハラプロジェクト vol.7
『静かな一日』
作・演出・振付:矢内原美邦
映像:高橋啓祐
出演:川田 希、松永大輔
2013年2月9日(土)14:00/18:00
公演の詳細は、こちらをご覧下さい。 → こちら |