アイホール・アーカイブス
2022年度次世代応援企画break a leg
合田団地(努力クラブ)×FOペレイラ宏一朗(プロトテアトル)インタビュー
令和4年度次世代応援企画break a legとして、努力クラブ『誰かが想うよりも私は』(6月4日・5日)、プロトテアトル『レディカンヴァセイション(リライト)』(6月11日・12日)がまもなく開幕します。本企画は、今回が最終開催となります。
作・演出を担う、合田団地さん(努力クラブ)とFOペレイラ宏一朗さん(プロトテアトル)に、今回の公演についてお話いただきました。司会は、劇団太陽族代表で、次世代応援企画break a leg選考委員の岩崎正裕さんです。
★今年度の次世代応援企画break a legについて
岩崎:令和4年3月末日までディレクターだった岩崎正裕です。私がアイホール関連の会見で登壇するのは、実質最後となります。ディレクター職は13年間だったんですね。そしてbreak a legが今回10本目ということで、これが「10本目が区切りだからやめよう」ということではなく、たまたまということが、何か悔しい思いでいっぱいでございます。今回で最終開催となるこの「次世代応援企画break a leg」は、年度明けたばかりの4月~6月に上演する劇団が少なく、その期間を若い劇団の登竜門として使ってもらおうということで立ち上げました。また、アイホールは、他のホールに比べると若手の団体には敷居が高いんです。そこで、本企画を機にアイホールを使い続けられる若い劇団やユニットが育ったらいいなというような思いで、イベントホール施設利用料や設備費が免除になる条件にして続けてまいりました。前回まで審査を共にしてくれていた劇作家・演出家の泉寛介さんが東京転勤になったため、今年度開催の選考委員については、舞台俳優の三田村啓示さんに次のバトンが渡されておりました。三田村さんにはこれから頑張ってもらおうと思った矢先に、1回のみで終わってしまうことになりました。
三田村:まず、選考への参加が1回きりとなってしまい大変残念です。仕方のないことだと受け止めるしかない一方で、自信を持って送り出せる二団体を結果的に選ぶことができて、ほっとしています。二団体とも、このbreak a legの他にもこれまでいろいろな劇場の企画に参加をしており、あとこれから参加する予定もあり、共に旗揚げから約10年のまさに若手から中堅に移行する非常に脂ののったタイミングに、このアイホールで作品を上演していただけるということで、私自身もすごく楽しみにしております。ファイナルにはなりますが、ぜひたくさんのお客様に来ていただきたいので、稽古場レポートや劇評といったコンテンツに僕も関わり、ささやかではありますが、よりこの企画を充実させていきたいと思っておりますので、あわせてぜひチェックしていただけたらと思っております。
★努力クラブ
■“ネガティブ”を肯定する
岩崎:努力クラブは描かれてる世界はめちゃめちゃネガティブですが、決して絶望で終わってないなと思ったんですよね。人間って本質的にはこうだなって感じるホンであり、僕自身は温かみも感じました。そのあたりが魅力的だなあと思っています。また、団体の完成度というよりは、みんなが一つの問題にしっかり向き合って演劇が作られてるという感じがしました。
合田:努力クラブは2011年に京都で結成しました。今年で活動が12年目になるので、本当に若手と言っていいのかという葛藤があります。
僕らはネガティブで、心の内側にあるなるべく人目に触れさせないものを、舞台上に載せた上で、それを肯定したいと思いながら、毎回作っています。例えば「高校生の男女が家に居場所がないので、深夜の河原でただただ喋ってる」だけのお芝居や、「終電を逃した女の子2人が、家に帰るために車を持ってる彼氏を呼び出して、結局家に帰らずに海までドライブに行く」みたいな、そんなお芝居です。
■『誰かが想うよりも私は』について
合田:この作品だけでなく、僕が書く戯曲は恋愛のお芝居が多くて、もうほぼそれにしか興味がないんです。今回、主役は女の子で、今付き合ってる人がいるのに他に好きな人ができてしまって、色々な人を傷つけてしまうんです。僕自身もそうで、彼女ができたら寂しくなくなるのかなってずっと思ってたんですけど。そんなこともなくて、どうしたって寂しいし、孤独感がある。そんな僕の苦しみを、主人公の女の子の姿に託したいです。 「死にたい」だとか言って、周りの人の気を引くみたいな「かまってちゃん」という、一般的には迷惑な人とされている人がいますが、僕自身は構ってもらいたがっているんだったら全力で構ってあげたらいいじゃないかと思うんです。みんなからは嫌われて、あんな女やめておいた方がいいよみたいなことを言われるけど、でもある人には好かれるような、そんな人の内側を舞台に乗せたいと思います。
■自分を救うための表現
合田:そんなだから、僕自身は苦しみを劇化しても全然解決されてないんです。僕の作品に対して、観客は本当の意味での共感はきっとできないと思いますが、近しい苦しみみたいなことは、皆さん経験しているんじゃないでしょうか。だから観劇した人にはこういう事態にならないで欲しいという願いを込めてます。それを観て、共感する人は共感してほしいし、全然わからないなと思う人は呆れて笑ってもらったらいいなと思ってます。そういう意味でコメディにできればと思っています。
★プロトテアトル
■精密な会話劇
岩崎:プロトテアトルさんと努力クラブさんはどちらも会話劇ではありますが、努力クラブさんが“ゴツゴツしたイシツブテ”みたいな会話だとすると、プロトテアトルさんは“精密な会話劇”という印象でした。ペレイラさんは近畿大学ご出身ですが、近大ならではの対話劇のエッセンスみたいなものが非常に巧みに練り上げられてるなと思いました。応募資料で見た『ノクターン』も装置や人物の配置など含めて「対話劇のお手本」のように作られていましたね。
ペレイラ:プロトテアトルは、近畿大学に在学中の2013年に同級生たちと一緒に旗揚げしました。作風はそんなに決めてないのですが、僕は日本語の会話が好きなんです。日本語は一音一音だけでなく、無音にすら意味がある。発するのにすごく気を遣うし、諸刃の剣のように抜き身で相手の会話を受けて自分がどう変化してどう選択するのという選択の連続をずっと強いられてるような、ゾクゾクする日本語特有の会話の不出来なシステムが僕はすごく好きなんです。演劇の登場人物たちは限られた時間の中でしか台詞を発せないし、たぶん語られてない言葉があると思うんですが、舞台上になかった言葉を想像するのも好きで、そういうことを考えながら創作しています。
■『レディカンヴァセイション(リライト)』について
ペレイラ: 「レディカンヴァセイション」は2019年の6月に初演しました。言葉だけのやりとりに重きを置きたかったので、地震によって山奥にあるビルが崩れて、たまたまそこにいた人たちが、お互い一切相手の状況が見えない中で会話をするシチュエーションを作りました。見ず知らずの人たちが一つの大きな不利な状況の中でどのような言葉を交わしていくのか、あるいは交わさないのかということを追求した作品です。当時は、まだコロナもなく、マスクを外して稽古していて、その時は「どういうものが会話なんだろう」「会話劇ってそもそも何だろう」ということを思いながら創作していました。初演の時は、1時間40分ぐらいの作品だったのですが、今回はさらに台詞を加えています。コロナ禍になり、リモートで直接対面できないことや、マスクをしていて相手の顔を見て喋ることが難しい時代になったりしたのを踏まえて、もっと登場人物たちに会話を続けさせてあげたいと思うようになったからです。タイトルに加えた「(リライト)」には書き直すという意味だけでなく作品に再び光を灯すような意味も込めています。
■創作することへの思い
ペレイラ:僕は「FOペレイラ宏一朗」という名前で活動していますが、本名は「福島オリヴェイラペレイラ宏一朗」と言います。血筋にポルトガルの血が入っていることで、いじめられこそしないものの、居心地の悪さを感じることや偏見の目で見られることを小学生から高校生ぐらいのときに経験しました。だからかもしれませんが、自分はどういう人間なのかということを常に考えながら生きていました。それが演劇の創作や自己表現に繋がっている気がします。演劇の中に明確な答え自体があるわけではないですが、自分の考えてる価値観や考えを共有したり、反射して自分に返ってきたりということが楽しいので創作を続けているんだと思います。
★質疑応答
Q. お2人はアイホールで自作を上演するのは初めてかと思うんですけど、アイホールという存在をこれまでどういうふうに思い描いてましたか。
合田:役者としてアイホールに何回か立たせてもらったことがあって、オシャレしている部分がどんどんはぎとられていくような場所だと感じて、それが面白いなと思ってました。京都では演技でも演出でも装飾してる部分を面白がっていたんですが、アイホールではそれらがどんどんはがされていくんです。だから、アイホールは、裸…いや違うな…ボロボロな服でたどり着くような場所です。オシャレする必要がない、お寺の本堂とかにいるときに近い気持ちです。
岩崎:それは痛々しいこと?それとも素敵なこと?
合田:痛々しいから素敵なことですね。
岩崎:まさに、合田さんの劇構造とバチッと繋がった!
ペレイラ:僕は大学時代からアイホールにはちょくちょく観劇のために来ていて、「面白い演劇が見られるホール」というイメージを持っていました。この空間がそのイメージを作ってるんじゃないのかなと思うぐらい、この建物、劇場っていうものの存在が自分の中ですごく大きかったです。だからアイホールは、自分の世界の延長線上にないというか、もっと別の世界にあるものに見えていました。でも昨年、ここが演劇ホールじゃなくなるかもしれないと聞いた時に、それは嫌だという思いが湧いてきたのもこの企画に応募した理由の一つです。アイホールは、関西の中で僕のいちばんの聖地ですね。
Q.アイホールという自由でかつ、巨大な空間をどうのように使いますか。
合田:僕はなるべく小さく使いたいなと思ってます。「大きな空間」対「小さな私たち」という感じで、空間に対しての自分たちの小ささみたいなことを思い知りたいなと思ってます。
ペレイラ:僕もちょっと小さく使いたいです。ただ僕の中で、アイホールの空間は横より縦が長いという印象があります。この高さを活かしきれないと作品は負けるというか、お客さんにフィットしないんじゃないのかなと思うので。作品的にちょうどビルの中に埋まっているので、この縦の空間を生かして、お客さんの見る範囲を狭めようと思います。
それと今回、break a legの関連企画として、同じアイホールで2団体の公演期間中に展示企画「試作と努力、舞台美術」を開催します。努力クラブとプロトテアトルの舞台美術に関する展示はもちろんのこと、デザイナーの山口良太さんによる「2002/2022」などのインスタレーション作品も展示いたします。こちらもよろしくお願いします。
Q、岩崎さん、この企画はファイナルになりますが、改めて10回開催した成果や意味について総括していただけますでしょうか?
岩崎:10回続くってやっぱりすごいことですよね。参加団体の数もさることながら、10回にわたって紹介するべき若い団体が出てきたことは、関西の底力だと思うんです。アイホールは、ある時期から意外と若い人たちが足を踏み入れにくいと言われてたんです。だから合田さんやペレイラさんがおっしゃったように確かにちょっと「遠い」んですよね。でも若い人に未来へ繋いでいってもらわなければということで、「次世代応援企画break a leg」は誕生しました。だからこそ「この企画こそ続いていかなきゃいけない事業なんだ」と私は思っています。これだけ若い劇団を紹介し、文化を支えてきた伊丹市において「break a leg」は大きい誇りだと思っています。
Q:この企画では、他の都市から来てる劇団もいましたよね。そのあたりのこれからのアイホールの役割についてはどう思われますか。
岩崎:東京のみならず四国の劇団が来てたりもするので、交流の交差点として機能しています。ただ、これから共催や提携という枠組みそのものがなくなると、どの劇団も予算的な措置はかなり厳しくなるだろうなと思います。この規模で、いろんな都市にある小さい劇団、あるいは人気劇団を招聘するということをアイホールはずっと継続していました。それが関西のみならず、たくさんの演劇ファンに紹介できる劇場であったと思います。昨年、市民説明をしなきゃいけないということで、市の担当課が各中学・高校の演劇部を回って、「アイホールを維持するのに年間9000万かかる」という説明を部員と顧問を前に行いました。結果的に劇場は残ったけど、事業企画のための予算は一握りしか残りませんでした。その時、ある伊丹市内の高校の先生が昆陽池という市民の憩いの場を例に出してこう言いました。「昆陽池は残ったけど、水がなくなった」と。いやその通りだと思うんですよ。
要するに、劇場はそこを使う団体や企画者があってこそなんです。アイホールは底の見えてしまった池で、この「break a leg」に選出された二団体が最後に残った一滴の水なのかなと思っています。だから、この二団体には最後のきらめきになってほしいなと僕は思いますし、難しいかもしれないけど、やっぱり次またアイホールを使ってくださいと思っています。そのあたりも含めて今回、良い形で、良い作品を見せていただければと思っております。
(2022年4月 アイホールにて)
☆公演情報
努力クラブ 第15回公演『誰かが想うよりも私は』
作・演出|合田団地
2022年6月4日(土)・5日(日)
公演詳細
プロトテアトル 第11回公演『レディカンヴァセイション(リライト)』
作・演出|FOペレイラ宏一朗
2022年6月11日(土)・12日(日)
公演詳細
次世代応援企画break a leg共通ページ
※関連企画「試作と努力、舞台美術」についての詳細あり。
稽古場レポートも近日追加予定