アイホール・アーカイブス

よくある質問

折込情報

X(旧Twitter)

「地域とつくる舞台」シリーズ 「伊丹の物語」プロジェクト リーディング公演『ビューティフル・サンデー』 出演者座談会

アイホールでは、12月24日・25日に「地域とつくる舞台」シリーズ 「伊丹の物語」プロジェクト リーディング公演『ビューティフル・サンデー』を上演いたします。
構成・演出を務めるのは、小原延之さん。劇作・出演には、中村ケンシさん(空の驛舎)をはじめとした伊丹市出身/在住者やアイホール講座出身者が集結。市民への取材や、自身の伊丹での思い出などをベースに創作された作品を、リーディング上演いたします。
そこで今回は、市内中高演劇部出身の出演者たちと小原さんに、作品についてや創作の意気込み、演劇の祭典「アイフェス!!」の思い出などを語り合っていただきました。

→「アイフェス!!」についてはこちら


■企画スタートのきっかけ
小原:前回(平成27年度~29年度)の「伊丹の物語」プロジェクトは3年間かけて創作を行い、非常にクオリティの高い作品が上演されていて、「伊丹に貢献するアイホール」という位置づけだったかと思います。しかし、昨年アイホールの存続活動に参加した時に実感したのは、そういった作品やアイホールの取り組みが「市民や地域などいちばん近いところになかなか届いていない」ということでした。 前回のごまのはえさんの作品には、伊丹在住の俳優がひとり出演していたんですが、 やはり伊丹市民が表現者として劇場に参加して、伊丹市民がアーティストとともに、その芸術性を享受する機会をもう少し色濃くしなくては市民に声が届いていないという現状を非常に痛感しました。
そういったことから、クオリティは担保しつつ、アイホールで育った人たちを中心に市民の方々を出演者に据え市民を観客に迎える、というアプローチの作品にしてはどうかと考えました。企画の中心にあるのは、「伊丹市民が中心になって、伊丹市民のための作品を作ってみたらどうなるか」 ということを意識しています。

 

■今回の公演では、様々な演出で舞台を盛り上げるとともに、障がいを持つ方へのアクセシビリティの向上にも取り組んでいます。

小原:チラシデザインを伊丹市民の鹿嶋孝子さん(鹿鳴舎)にお願いしたこともそうですが、演出的には伊丹市民が目にしているものをそのまま採用するということを意識しています。音楽は、「伊丹オトラクな一日」というイベントなどで活躍されているギター・ウクレレ奏者のおがわてつやさんにお願いしました。写真は市内で撮影されたものを集めて投影します。これも市民が街中で聞いている音楽や景色、風景をそのまま舞台に上げるということですね。
舞台手話通訳に関しては、僕も何本か演出したり、上演を拝見する機会もあって、リーディングに手話というのは相性がいいのではと思っています。手話は直接的な形を表すコミュニケーション方法なので、表現がはっきりしていて、内面にそれを込めるとか、間接的に伝えるということがあまり確立していません。今回は普通の日常会話を手話のニュアンスで表すとどうなるか、ということも挑戦してみたいと思っています。抽象的なセリフをどのように抽象的ではない表現で表すのかなど僕の中でも新しい試みで、アイホール的にも有意義になればと思っています。

 

■今回のキャスティングは、「アイフェス!!」や「演劇ラボラトリー」の出身者などを中心に声をかけていくところから始まりました。
小原:「アイフェス!!」は生徒たちに舞台経験を積んでもらうことで、講評員や技術スタッフらプロの演劇人の考え方がどういうものかということを伝えて送り出しているんですが、実際は社会に出てみると高校時代のような芝居作りができないという理由で辞めてしまう子もいます。でも、今回の出演者たちのように継続されてる方もいて、「卒業生が戻ってくる企画はないのか」という思いもあって、この公演がそのような機会になればいいなと思っています。
また、これも存続活動が関わってくるんですが、「伊丹からは演劇人が育ってない」と言われます。実際には続けてらっしゃる方はきちんといて、「劇団五期会やエイチエムピー・シアターカンパニーに俳優が居て、かしこしばいという劇団もあって」と言うんですけれども、目に見えていないというところが大きいんでしょうね。そういったアピールの意味もありました。
今回作家で演出助手をしてくれる石崎さんは、「伊丹想流劇塾」に第5期生として通っていて、素晴らしい台本を書かれていたのでお誘いしました。

植村美咲さん 俳優。劇団五期会所属。伊丹市出身。市立伊丹高等学校卒業後、専門学校を経て劇団五期会へ。

出演者のみなさんは主に小劇場で活動している方が多いですが、植村さんは「劇団五期会」所属の俳優さんです。植村さんとは昨年「大阪演劇見本市」に出展していた時に偶然出会いました。新劇で得た技術を還元していただければと思っています。
植村:お会いした時、本当に久しぶりだったんですが、中学生の時の「アイフェス!!」の芝居を覚えてくださっていて嬉しかったですね。私は、高校卒業後は演劇系の専門学校に行って、そこで出会った先生に憧れて今の劇団に居ます。その時点でアイホールとは縁遠くなってしまっていたので、今回は高校以来のアイホール出演です。

藤原佳奈さん 俳優。伊丹市在住。県立伊丹西高等学校卒業。H30年度演劇ラボラトリー参加。

小原:藤原さんとも以前出会っていて。2018年にメイシアター『カレーと村民』(作:ごまのはえ)のリーディング公演を僕が演出したときに参加してくれていました。
藤原:あの時は小道具の旗に台詞を書いて演技をしたのをよく覚えています。その後、アイホールの「演劇ラボラトリー空晴プロジェクト」にも参加しました。あとは「アイフェス!!」の受付手伝いなどもしていて、大道さんや米沢さんとはそこで知り合いました。
小原:渡辺さんは、作家として「自分史の会」のメンバーだったのでお誘いしたんですが、元は演劇部の顧問をやられていました。僕は高校演劇の阪神支部大会の審査員を10年ほどやっていたので、そこでも大変お世話になりました。

渡辺美左子さん 朗読赤とんぼメンバー。自分史の会所属(作家名はわたなべみさこ)。伊丹市在住。元市立伊丹高等学校教諭で演劇部顧問。

渡辺:今は引退して、ラスタホールの朗読講座に通った縁から「朗読赤とんぼ」に所属しています。私は市立伊丹高校で20年演劇部の顧問を持っていて、米沢さんや植村さんは教え子になるんですが、私は自分では全然演劇できないから部員にぶら下がっていました。阪神支部でも県立伊丹高校の五ノ井先生*1とかにお世話になって、顧問とはいえ「部員あっての演劇部」という感じで続けてきました。 ただ、「演劇部が潰れないように」ということだけは、一生懸命力を尽くしたかなと思います。彼女たちのように演劇を好きな部員がいてくれたおかげで、私もなんとかついていけた感じだったので、部が今も続いてくれているのも、この2人のような部員のおかげだと思っています。
小原:渡辺先生から見てお二人はどんな高校生でしたか。
渡辺:二人とも部長だったし、脚本も担当していて、みんなを引っ張っていってくれる頼りになる生徒でした。この子たちに任せておけば大丈夫という感じで、コンクールやアイホールに来るときも、「じゃあ私は何時に見に来るから」とだけ言って、部員に頼り切って動いてました。
植村:言ってた言ってた(笑)。
渡辺:今回、顔合わせの時に「こんな奇跡的なことがあるんだ」と思って本当にウルウルきてしまって。まず私が演劇の舞台に上がるなんて考えもつかなかったし、脚本を書くこと自体思いもつかなかった。アイホールの小原さんの戯曲講座に参加したことがきっかけでいつの間にか戯曲を書いて、舞台にも立ってる。毎回、参加してること自体がとても感動的だと思いながら参加させてもらっています。
小原:僕も稽古を見ているとウルウルきています(笑)。高校の先輩後輩である井上さんが石﨑さんの台本で登場するとどうなるのかということもやりたいし、市立伊丹高の卒業生が共演するとか、美しいじゃないですか。中高生時代を見ていた子たちが活躍するのは感動しますね。

■今回の出演者は世代も所属も違いますが、みなさんとの共演についての思いや、高校時代の思い出などお聞かせください。

米沢千草さん 俳優。伊丹市在住。エイチエムピー・シアターカンパニー所属。市立伊丹高等学校卒業。

米沢:私は「アイフェス!!」のお手伝いや、市立伊丹高演劇部のコーチをしていたこともあり、これまでにみなさんと交流はあったんですが、少し世代が離れているので「まさか共演出来るとは」という感じですね。顧問だった渡辺先生の作品の上演や共演できることも「まさか」と思ってますし、後輩である植村さんとの共演ももちろん楽しみにしています。
藤原:私と井上さんとは学年的には被っていないので、現役の時には関わりがなかったんですが、顧問だった五ノ井先生が私の話を県高でもしていたみたいで、知ってくれていて仲良くなりました。今回共演できるのは本当に嬉しいですね。顔合わせの時に読み合わせをしたんですが、姉弟役を演じたのが本当に楽しかったです。また、米沢さんと共演できるのも嬉しいです。

井上多真美さん 俳優。にほひ所属。県立伊丹高等学校卒業。

井上:私も小原さん演出の作品に俳優で出させてもらえるなんて思っていなくて、お話をいただいた時は「これは出るしかない」という感じでした。今、稽古場でも前に小原さんがいて、横に藤原さんもいることに感動してしまって、すごい楽しいです。高校生の時にはまさかこんなことになるとは想像もつかなかったです。
小原:藤原さんと井上さんは、五ノ井先生が県立伊丹西高校から県立伊丹高校に異動された時のちょうど間(あいだ)くらいの世代ですよね。
藤原:私が2年生の時に五ノ井先生が異動されたのでOBOGからのプレッシャーがすごくて、現役とOBOGの間で戦いが起こるというか、現役の「好きなことをやらせて欲しい」という思いと、OBOGの「伝統を守りたい」思いとですごい揉めました。
井上:それ、県立伊丹高でも逆バージョンが起こってました。1、2年上の先輩は五ノ井先生が急に入ってきたことで、対抗心でワッーとなってて。文化が変わってそこで世代間で軋轢が生まれたんですよね。それまでの先輩は結構体育会系だったみたいなので、その感じも変わりました。
小原:その時期も僕は阪神大会の審査員でしたね。作品もよく覚えています。
藤原:県高がコンクールや「アイフェス!!」で褒められているのを見て、当時すごく悔しかったです。こっち(西高)はそれまで五ノ井先生のおかげで毎年一定の成績をとれていたので「今年からどうなるんだ」という視線もすごくて。
渡辺:OBOGに比べられるんや。
植村:「やっぱり五ノ井先生の力が」みたいな。
藤原:高校演劇は現役が好き勝手やってればいいと私は思うんですけど、毎回見に行っては厳しいこと言うOBOGも居るんですよね。それで現役のやる気が下がっちゃう時もあって。だから、私は卒業してからは大会の前ぐらいにお菓子持ってちょっと顔出して「みんなの好きなふうにやってください」ってだけ言う先輩になってました。
小原:いい先輩ですね。
藤原:でも、卒業してから本当にアイホールのありがたさを改めて感じましたね。アイホールは舞台や客席の使い方も自由で色々な使い方ができるので、そういうところも面白いです。
井上:確かに、「アイフェス!!」のことを小劇場の演劇人に話すと、「高校生でそんなことできるの?」と羨ましがられますね。

 

■『ビューティフル・サンデー』では、作家それぞれが思う「伊丹」の姿を描いていて、有岡城跡や三軒寺前広場、日本酒など市民にとって馴染み深い場所やものが次々と登場します。知っているものもあれば、知らなかったものもあり、作品を通して新たな「伊丹」に気付かされます。
小原:私たち演劇人は「伊丹といえば演劇」という印象が強いんですが、長い歴史もあるし日本酒も有名です。伊丹はけん玉が強いというのも一部にはすごく有名なんですが、あまり知らない人もいます。そういった伊丹の様々な魅力を伝えられる作品になればと思っています。

石﨑麻実さん 作家。演出助手。伊丹市在住。かしこしばい所属。県立伊丹高等学校卒業。伊丹想流劇塾第5期生。

石﨑:私は『来るべき日への祈り』という作品を上演します。これはJR伊丹駅前に建っている「カリヨン(フランドルの鐘)」*2をモチーフに、アイホール存続のことなどを重ね合わせた戯曲なのですが、カリヨンについては高校生の時のコンクールでも書きました。その時も意識してはいなかったんですが、私がJR伊丹駅にすごく近いところに住んでいるのもあって、どこか記憶の隅にカリヨンが居て、「いつもそこにあるもの」で「なくなったら嫌だ」と思う存在なんだと今回気付きました。
小原:石崎さんのコンクールの作品も覚えてます。
井上:私はその作品でカリヨンについて知りました。
藤原:昔、カリヨン演奏者の方のドキュメンタリー番組を見たことがあって、それがすごく印象に残っているので、カリヨンが作品に出てくるのは楽しみです。
小原:渡辺さんの作品も市立伊丹高校の思い出を辿る作品で、そこに卒業生たちが出るというのはより一層面白みを感じますね。
米沢:小原さんの演出がどうなるのか楽しみです。

 

■最後に企画への思いや公演への意気込みなどをお願いします。

小原:彼女たちの後輩や現役の高校生が見たりすると思うんですが、観客が「伊丹って演劇を続けていいんだ」と思って欲しいですね。続けている人も続けていない人も、こういう形で帰ってきて、他校の人たちと交流する舞台があるんだと思われたら楽しいと思います。みなさん、「こんな機会があるんだ」っておっしゃってましたが、今の子たちが「こういう機会があるんだな」 と思って成長できるのは全然違う。この機会が、そうやって継続しようとする子たちの支えになればいいなと思います。

(2022年11月 アイホールにて)


*1 五ノ井幹也先生…県立伊丹高校教諭・演劇部顧問。前任校の県立伊丹西高校では12年間演劇部の顧問を務め、2012年春季全国大会出場。2013年県立伊丹高校へ赴任。2022年第46回全国高等学校総合文化祭に出場し、優秀賞と創作脚本賞(作:古賀はなを)を受賞した。ごのいワールド

 

*2カリヨン(フランドルの鐘)…JR伊丹駅西側広場に建つ、複数の鐘を巨大なシリンダー式のドラムで自動演奏したり、奏者が鍵盤とペダルで演奏する楽器。1990年にベルギー王国ハッセルト市より伊丹市へ寄贈された。「フランドルの鐘」は記念塔の名前。詳細はこちら


■公演情報
令和4年度AI・HALL主催公演
「地域とつくる舞台」シリーズ 「伊丹の物語」プロジェクト
リーディング公演『ビューティフル・サンデー』

構成・演出:小原延之

2022年
12月24日(土)15:00
12月25日(日)15:00

公演詳細はこちら