令和6年
7月15日(月)、8月12日(月)、9月9日(月)、10月7日(月)、11月18日(月)各回19:30~21:15《全5回》
次代を担う演劇人育成のために立ち上げ、今年で開講19年目を迎える世界演劇講座。毎回、前半は問題提起のレクチャー、後半は映像を参照しながら、受講生とのディスカッションを中心に行います。あなたの観劇体験や作品制作に生かしてみませんか。
講師/西堂行人(演劇評論家)、笠井友仁(演出家)
会場/カルチャールームB
対象者/年齢や演劇経験は問いません。
定員/25名程度(申込順)
受講料/来館受講:全5回一括5,000円※1回ずつの受講もできます:1回1,500円
お問合せ/sekaiengeki@gmail.com
申込先/https://forms.gle/Jm2DwnUSYzVjtfNa7
世界演劇講座ⅩⅨ -新時代を生きる劇作家たちⅡ -
2010 年代以降の時代を生きるわれわれは、どういう局面に立ち会っているのだろうか。
前年の講座で、わたしは 1960 年代以降の「現代演劇」の 50 年余を三つのブロックに分割した。60 年代後半、 80~90 年代、そして 2010 年代である。これをもう少しパースペクティヴを広げて、20 世紀初頭からの近代・現 代演劇史に射程を延ばしてみると、どうなるか。これまで近代演劇、現代演劇を「新劇」、「アングラ・小劇場」で括ってきたことをもっと大きな視点から捉え直せるのではないか。それを世代論を切り口に括ってみる。
一つの世代がまとまって登場することは、数十年ごとに現象する。それは往々にして時代の大きな変わり目を象徴する。近代演劇は 1900 年前後に生まれた世代が実質的な生みの親だった。土方与志、久保栄、村山知義、千田是也、田中千禾夫、三好十郎らである。先行する逍遥、小山内薫、島村抱月に続いて彼らは第一次アヴァンギャルドの時代に表現運動を開始し、築地小劇場の運動を経て戦後新劇の立役者となった。これが第一世代だとすると、第二世代は1940 年前後に誕生した世代、すなわち唐十郎、鈴木忠志、佐藤信、太田省吾ら 60 年代の演劇革命の担い手たちである。その少し前に寺山修司、蜷川幸雄、別役実が誕生しているが、彼らも含めて戦争から十五年経った安保闘争の渦中に青春時代を経験した。その経験から革命的な演劇を開拓していった。彼らは近代社会が現代社会に転換する節目に登場し、演劇史に大きな切断をもたらした。そして三つ目の節目が1970~80 年 代生まれで、「新時代」に登場した「新旗手」たる劇作家たちだ。
歴史学ではしばしば40 年周期説が唱えられる。歴史がひとサイクルめぐる時間がほぼ40 年に当たるということだ。とすると、21 世紀以降に生きるわれわれは今、近現代以降の大きな時代の切れ目に直面していることになる。「新時代を生きる新旗手」たる彼(女)らは、まさにその渦中で、演劇の新局面を切り開こうとしているのではないか。具体的には、彼らは長い演劇史を経て、新劇やアングラ・小劇場のムーブメントから何を受け継ぎ、更新してきたのかが一つの指標となる。
彼らが登場した2011 年、東日本大震災が起こった頃、実は地球温暖化、気候変動など自然現象の災害が多発した時期でもあった。こうした危機的状況は人間社会の在り方を変える。2010 年代後半以降、それは世界の局地に出現した「民主主義」の破壊、反知性主義の横行と人権への介入、つまり富裕と貧困の分断化とそれに伴う独裁国家の出現などである。人類存亡の危機の目盛りは一つも二つも上がっている。
こうした政治的次元にあって、演劇運動も影響を被らざるをえない。政治の危機と文化や演劇(の破壊)は連動している。
この状況下で出現したのが新世代による「新時代」である。アングラ・小劇場のパラダイムがひとまず終焉し、 現代の新パラダイムの模索が始まったのだ。だがそれは、AI やロボットによる「新奇」な目新しさに向かうのではなく、むしろ旧来のものを再生させ、再統合していく方向をめざすのではないか。新劇-アングラ・小劇場が転換し、新たなヴィジョンの創出が待たれている。演劇はいよいよ次の時代に突入した。この歴史的局面を劇作家たちの活動を通して考えていきたい。
西堂行人
【第1回】7月15日(月) われわれは今、どういう「新時代」を迎えているのか?
近代・現代演劇史を三つの段階に分けたとき、三番目に相当する「今」の時代をどう考えていけばいいか。演劇 が直面している危機は、人類史、地球史にまたがる段階ではないか。演劇のみならずわれわれは歴史を根源から考え直す段階に直面している。
【第2回】8月12日(月)
ひとの社会の「暗部」に目を向ける/前川 知大(イキウメ)
SFやオカルトを得意としていた前川は、昨年の『人魂を届けに』で新しい次元に突入した。精神の危機を抱える者たちは、アジールを求めて「森」に集まる。そこで人々は何を癒され、何を充填していくのか。2023 年度読売演劇大賞最優秀作品賞に輝いた同作を対象に現在の暗部を考える。
【第3回】9月9日(月)
登場人物から透かし見える「歴史」/長田 育恵(てがみ座)
長田は当代きっての文学的台詞の書き手だ。評伝劇を得意とする彼女は、作家や詩人らの内面や生き方に分け入り、そこから戦争や歴史が透かし見えてくる。朝ドラ『らんまん』の脚本家の出世作『乱歩の恋文』は長田の原点が垣間見える。
【第4回】10月7日(月)
「既知」を疑い、新しい視点を打ち出す/野木 萌葱(パラドックス定数)
常識的な見方を覆すことで新しいドラマを展開する野木は、スケールの大きい素材を扱い、まったく新しい世界観を提示する。戦時中に、科学者たちが 731 部隊に関わることで何が起こったか。戦争と科学者の関係は、今を問うことにも通じる。
【第5回】11月18日(月)
社会や現実の「裏側」に着目する/中津留 章仁(TRASHMASTERS)
社会や現実の裏側に潜む問題に着目し、何が隠されているかを中津留の劇作は暴いていく。だが、問題を投げかけるが、解決は出さない。あくまで問いを提出するのみだ。そこに挑む人間の葛藤や闘いは壮絶だ。社会を変えていくにはどうすればいいか。そのヒントが中津留の芝居に隠されている。
参考文献:西堂行人著『新時代を生きる劇作家たちー-2010年代以降の新旗手』(作品社、2700 円+税)、『日本演劇史の分水嶺』(論創社、近刊予定)
主 催/エイチエムピー・シアターカンパニー
講師
西堂行人(にしどう・こうじん)
演劇評論家。1970年代末からアングラ・小劇場運動に随伴しながら批評活動を開始。80年代後半から海外の演劇祭などを視察し、独自の世界演劇論を構想。90年代より、ドイツの劇作家ハイナー・ミュラーのプロジェクトと韓国演劇との交流に力を注ぐ。主な著書に『演劇思想の冒険』『ハイナー・ミュラーと世界演劇』『韓国演劇への旅』『現代演劇の条件』『劇的クロニクル』『[証言]日本のアングラ』『蜷川幸雄×松本雄吉』『日本演劇思想史講義』(編著)『唐十郎特別講義』。近著に『敗れざる者たちの演劇志』(流山児祥との共著)。2023年3月まで、近畿大学を経て明治学院大学教授。
笠井 友仁(かさい・とものり)
演出家。1979年大阪府八尾市生まれ、宮城県仙台市出身。2001年に近畿大学文芸学部芸術学科舞台芸術専攻を卒業。その後、エイチエムピー・シアターカンパニーを結成し、08年3月まで代表を務め、現在まで全作品の演出を担当している。14年6月から20年6月までNPO法人大阪現代舞台芸術協会の理事長を務めた。主な演出作品にアイホール現代演劇レトロスペクティヴ『阿部定の犬』、メイシアタープロデュース公演 SHOW劇場『少年王國記』など。05年に若手演出家コンクール優秀賞、14年に文化庁芸術祭演劇部門新人賞、20年に大阪市咲くやこの花賞受賞。近畿大学講師。
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