アイホール・アーカイブス
鼎談 はしぐちしん×横山拓也×山口茜 (後編)
今秋上演の作品についてお話いただいた前編はこちら
■それぞれの作品のこと
横山:僕は『ブラックホールのそこ』の戯曲を読ませていただいたのですが、短編三本を並べることで新たな風景をつくりだしている手法といい、今までのはしぐち作品よりもリアリズムが強い印象があります。山口さんの『つきのないよる』も初演を拝見しているのですが、ケレン味もあって生演奏もあって、俳優がイキイキとしていたのが印象的で、エンターテインメントな作品で本当に面白かった。今回、あんなに面白かったものが、さらにどんなに変化が起きるのだろうと楽しみです。
山口:はあ…落ち込む…。
岩崎:なんでなんで(笑)
山口:いや~、何を喋っても判りづらくなりそうで(笑)
岩崎:一般論だけど、男って、どう差し出すかをものすごく考えるけど、女性って感覚的にお話になられることが多いと思う。今の山口さんは、横山君の論理的な語り口に対して、そのまんまでは返せないってことだよね。
山口:よく大阪のおばちゃんが喫茶店でどんどん話が変わっていったり、平気で車の往来の真ん中を渡ったりするって言いますけど、私、まさにそれなんです。ある男性が母親からのLINEを「わけが判らんこと書いている」って見せてくれたんですけど、私には全部判るんですよ、感覚というか…うーん、やっぱり喋れなくなってますね。
横山:その言葉にしにくい感覚を戯曲に起こしている作業ってすごく興味深いですよ。だって言葉にしているんですから。
山口:いや、できてないですよ。この作品も戯曲だけ読むと判りにくい話なんです。ただ、キャストにかなり助けてもらって観やすくなった。
はしぐち:僕は『つきのないよる』に俳優として出演しましたけど、稽古場では、俳優全員がこれはこう思うとか、そこまであからさまにしなくてもいいんじゃないかとか、論理的にこうしたほうが納まるんじゃないかとか、そんなことをそれぞれがワッと言って、それを茜さんが現場で選んでいくという創り方でしたね。
岩崎:逆にいうと、俳優がそれだけ興味を持てる戯曲ってことだよね。ひとつの解釈にしか読みようがない台詞は、俳優にとってはつまらないと思うけど、この戯曲はそうじゃないってことだよ。
はしぐち:自由にとれる、誤読の幅が広い戯曲だったので、面白かったです。
山口:しんさんは、なんか漂ってますよね。私と横山さんが両極端だとすると、その間を(笑)
■戯曲の創作方法について
山口:台本をみなさんがどうやって書いているのか、すごく興味があります。まず最初に何をするんですか?
岩崎:コンセプトを決めるんじゃない? 山口さんと同じくこれが気になる、ひっかかるというのを見つけて、これをどうやったら演劇にできるかを考える。
山口:じゃあ、そのあとは何をされるんですか。そこからどうするんですか?
横山:わー、難しい!!
山口:私、今まで、その時点で書き始めていたんです…。
岩崎:僕も20代のときはそうだったよ。
山口:それでも、あんな筋道の通った話になるんですか。
岩崎:いやいや、その昔は、関西屈指の“わかりにくい”劇作家だったんですよ、僕(笑)
山口:え、そうなんですか?
岩崎:論理性なんかいらないと思っていたし、そういう書き方が正しいと思っていた。90年代以降は会話劇を書くようになりましたけど、それ以前は、ストレートプレイは恥ずかしいという時期があったんです。80年代の話ですよ。何だか判らないものを、やみくもに追い求めようとしていました。だから、当時は、思いついたら直感的にわーっと書き出して、でも最後までたどり着けなくて苦しんだり、わけが判らないと言われてお客さんが減っていったり。そんなことを経験して、今日に至っています(笑)
横山:僕は、今よりもっと、ストーリーに寄っていた時期があって、そのころはプロットをたてて書いていました。人物をたてて、場所を決めて、状況を揃えてと、このやり方は今も続いていますが。あと、普段から言葉拾いとかメモを集めておいて、何と何が結合するかを考えています。本当はもっと直感を信じて書きたいんですが、やっぱり、自分のそういう部分は信じられなくて。これ、ずっとコンプレックスでもあるんです。まあ、それぞれ無いものねだりでもあるんでしょうね。
山口:確かに(笑)
岩崎:はしぐちさんは、もともと俳優が先で、劇作が後ですよね?
はしぐち:どこまで遡るかにもよりますが、そもそもは書きたいので大学の演劇部に入りました。映画も撮りたい、ディレクションもしたいという思惑からの演劇だった。だから、読むのも好きだし、観るのも好きです。僕も言葉拾いやメモはよくします。あと、小説を読んで気に入った箇所に付箋を貼って、あとで全部書き写すという作業も継続的にやっています。だから、興味のあるものを演劇に立ち上げるなら…という初動は一緒です。その興味から派生して、色んな本を読んで、重なることを探していく感じです。今回はその重なりが偶然にもたくさんあって…。例えば、『パワー・オブ・テン』という短編映画。カメラを、1m四方からスタートして、だんだん引いていく映画ですが、10の一乗で10m上空、10の20数乗でもう宇宙で真っ暗闇という(笑)。これを演劇で、例えばGoogleアースみたいにお客さんの視点を持っていくにはどうすればいいかを考えていると、太田省吾さんの言葉でぴたっとくる言葉に出会ったりする。で、その言葉をスポッと台詞にいれて引用してみる。そんなツギハギでつくっています。プロットとかうまくできないので、ワンシーンを書いて、また次のシーンを書いて、それをどう繋ぎ合わせるかを考えて、整合性がとれないところを変えてと、特に今回はそういうやり方で仕上げました。
岩崎:山口さんはどう書いているの?
山口:今回はくるみざわさんがいてくださるので大丈夫なのですが、いつもは、書きたいことが出てきても、それをどうまとめていいのかが判らなくて、とっちらかります。紙に書き出したりしても、まとめかたが判らず、箱書きすらできなくて…。なんかモヤッとするんです。
岩崎:箱書きはしちゃいけない、みたいな?
山口:したいんですけど、できないんです。複数人の会話で、自分以外の人の考えを書くことも、どうすればいいかが判らない。
岩崎:演劇では対話がベースだから、ある人の主義主張と異なる意見も書かなくてはいけないときがあるよね。
山口:それを自分を通してしか書けなくて…。男女の会話も、全部、私の視点からしか書けなくて、みんなどうやってそのことから逃れているんだろうって…。
岩崎:いや、逃れられていないよ(笑)
はしぐち:僕、今回、俳優に言われましたもの。「これ、全部、しんさん、ですよね」って。「台詞のあっちこっちにしんさんが顔出してきますよ」って(笑)
岩崎:じゃあ、山口さんは演出のときはどうしているの? 俳優がやったあとなんて言っているの?
山口:違和感を言葉にするために何度かやってもらいます。私の言葉で喋っても伝わらないので、動きを具体的に指定する以外に今は方法がないです。例えば、演出のダメだしで感情の話をするのはタブーとか言われますけど、もうそんなこと言ってられない状況になって、結局、最後は到達したいところまで持っていくためにタブーも使いまくります。
横山:上田一軒さんは、論理的に演出をするタイプで、うまくいかないときはその人にどういう作用を起こさせたいのか、俳優の目的を変えさせています。だから、演技の指示は無いけど、どういう目的を達成するのかで稽古が進んでいる気がします、うちの現場は。
岩崎:俳優と喋って、なぜうまくいかないのかを一緒に洗い出す作業をしないと、こっちが創り上げてほしい世界にいかないときはありますよ。
山口:ただ、もしかしたら、私が創りたい世界を私自身がわかっていない可能性があります。到達点も見えていなくて、それより、俳優との作業のなかで、違う世界が見えてきた方がいいと思っているふしがあるのかもしれません。
■これからの活動について
岩崎:ご自身のユニットの活動について、これからどう発展させていきたいですか?
はしぐち:コンブリ団は、来年、僕以外の劇作家の作品を上演したいと思っていて、今回とはまた違ったことをやる予定です。ただ、今作は茜さんの『つきのないよる』のように、方向性が変わるきっかけになるのではと思います。コンブリ団結成11年目にして、集団のあり方や作品づくりも含めて、変えていかなければいけないと感じていますので、いつもと違う大きな空間でやることで、ぐっと舵を切り替えるヒントが見つかればと思っています。
横山:僕は、iakuの立ち上げ当初から、再演に耐えうるもの、何度もの上演に耐えうる作品づくりをしてきたつもりです。今回、2年ぶりの新作で、これも今後のiakuのレパートリーのひとつになるように、今からどんどん温めていきたいです。戯曲にいろんな視点を取り入れるのもそういう目的があるので、強い作品になるよう、粘っていこうと思います。
山口:演劇をやり続けることに、今、ちょっと疲れています。あ、やめないですよ。トリコ・Aは私一人のプロデュースなので今まで通り進めていきますが、そうではなく、固定の俳優メンバーで、劇団みたいなかたちで創作を始めてみたいとも、実は思っています。
一同:(驚いて)おおー。
横山:そこにいく気持ち、ちょっとわかります。僕は劇団をやめてまだ時間が経ってないので、簡単に舵を切れないですけど、やっぱり自分の劇団で、同じ人とじっくり作品創りをやっていきたいという思いはあります。
山口:もともと劇団をやっていて、それを解消して、でもやっぱりそう思うってすごいですね。
横山:どこかで集団に戻りたくなるのかもしれないです。
山口:憧れますよね。
はしぐち:今、三人とも一人プロデュースのかたちをとっているから、そういうのは、確かに憧れますよね。もしかしたら、パートナー的な人でもいいのかもしれないですよ。共同で創っていくような関係性の。二人になった時から集団になるからね。
(2015年9月 アイホールにて)
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