アイホール・アーカイブス
平成27年度 次世代応援企画break a leg
福谷圭祐(匿名劇壇)×岩崎正裕(AI・HALLディレクター)対談/後編
3.次世代の目指す先にあるもの
福谷:初めてアイホールで芝居が打てるのは、すごく嬉しい。あまりプレッシャーには感じていません。前回は、「space×drama2013」の優秀団体として、シアトリカル應典院との協働プロデュース公演でしたので、「誰にも負けちゃダメだ」と感じていました。今回は競争相手がいないので、好きなことを伸び伸びやろうと思っています。特にアイホールは今まで公演してきた劇場のなかでもいちばん大きい空間なので、劇場の高さを活かした演出を何かしたいなと思っています。
岩崎:匿名劇壇を観て、「この人たちは本当に演劇のことを知っているなぁ」と思ったんです。もちろん大学で学ばれたということもあるでしょうけれど、今までの演劇の手法の、ある種の豊かな部分を、入れ子構造で盛り込んでいるように思えたんですね。だから、今までの小劇場演劇での実験は、決して断絶を繰り返してきたわけではなく、世代を経て、新しい演劇人に結実していると思いました。ところで福谷さんは、関西の演劇シーンの中で匿名劇壇の置かれている立ち位置については、どう考えていますか?
福谷:他劇団の作品でも面白いものはありますが、僕は「趣味が合わんなぁ」って感じます。そう思う僕の趣味は多数派だと信じて(笑)、今は作品を創っています。匿名劇壇は、お客さんがたくさん入るタイプの作品とは異なる芝居を創っていますが「僕らのほうが多数派のはずだ」という気持ちはあるんです。「同世代の人が観たら、自分たちがいちばん面白いんだ」と思ってやっています。
岩崎:少数派だと思ったら芝居なんかできないよね(笑)。「もっと多くの観客と出会えば、今よりもさらに自分たちの芝居を肯定的に捉えてくれる人に出会えるんじゃないか」と僕たちもそう思っていますよ。今後はどういうものを書いていきたいと思っているの?
福谷:「親戚が観て面白いと思ってもらえる演劇」を書きたいです。「親戚」というのは、「近しい人」というより「何も知らない人」という意味です。たぶん、大学時代の作品を親戚に観てもらっても「わかんなかった」と言われると思うんですよ。最近は公演を重ねるごとに、よく観に来てくださる劇団員の親御さんに「今回がいちばんよかった」と言っていただけるようになったので、そこは良い方向にシフトしていけているなと感じます。
岩崎:劇団としては、これからどのようにステップアップをしていきたい? 例えば東京に行きたいとか。
福谷:東京公演はやりたいですし、もっと大きな劇場でできるようになりたいとも思います。けれど一方で、僕自身は、劇団ごとステップアップしていく気概はそんなにない。劇団員は「東京公演やりたい」と言うんですが、本意は「みんなで東京公演をやること」ではなく、「個人的に東京へ行き、お芝居をして、人の目に留まって売れること」じゃないかなと思うんです。だから、劇団として大きくなっていくのは、たまたまでいいのかなぁ、と思っています。
岩崎:すごいドライだね(笑)。20年ぐらい前だと、「自分たちの集団でどうにかなろう」ということが暗黙の了解としてあったけど、今日の話を聞いて、とっても納得してしまった。これまでのbreak a legで出会ったアーティストの中で、芸術系の大学を出て就職せずに劇団を作って活動している人は実はそんなにいなかったから、今回、最も親近感を得られる人に巡り会えた気がしていますね。
福谷:えぇ! ほんまですか! 嬉しいです。匿名劇壇はきっとおもしろいことをやってくれるのではないかという劇場からの予感を的中させられるよう頑張ります。