アイホール・アーカイブス
『ピン・ポン』佐藤信インタビュー
アイホールでは、自主企画として平成28年12月4日(日)に「みんなの劇場」こどもプログラム『ピン・ポン』を上演します。本作は、劇団黒テントをはじめ、座・高円寺や数々の劇場の芸術監督として作品を創作してきた劇作家・演出家の佐藤信さんと、豊かな色彩感覚と世界観が人気の絵本作家tupera tupera(ツペラ・ツペラ)さん、ダンサーとしても活躍する振付家の竹屋啓子さんが、小さな子どもたちに向けてつくったシンプルで心温まる作品です。
当館では年に一本、子どもを対象とした演劇作品の上演企画を継続して実施しています。本作は、言葉を介さないノンバーバル(非言語的)の作品であり、平成26年度に当館でも上演し、カラフルなピンポン玉の幻想的な世界に魅了されたと、たいへん好評を博しました。上演に向けて、構成・演出を務める佐藤信さんにお話を伺いました。
レパートリー作品
僕が芸術監督を務める座・高円寺(杉並区立杉並芸術会館)は、公共劇場の仕事の一つとして、コミュニティシアター、つまり「地域の劇場」であろうということを設立当初から活動目標に掲げています。その具体的な取り組みとして、子どもを対象とした演劇公演の上演のほか、絵本の読み聞かせやワークショップなど子どもたちが劇場へ遊びに来られる工夫をいろいろと企画しています。この一環として、0歳から幼稚園児ぐらいまでの小さいお子さんから来ていただけるような公演をしたいと思い、この『ピン・ポン』という作品を創りました。
座・高円寺では、作品を財産にしていこうと取り組み、創った作品をレパートリーという形で再演を繰り返しながら、いろんな方に観ていただいています。指定管理者で運営している劇場なので、なるべく一回創ったものは使い捨てにしないで、再演で稼いで、次の作品創作の原資となるようにしています。この作品も毎年の上演を重ね、すごく変わっていき、レパートリーとしてどんどんと作品も良くなっています。出演者とも「やっても、やっても、新しい発見があるね」と言いあっています。続けていくことで作品が成長していくということが、いちばん大きい成果ですね。
0歳児から楽しめる
「0歳児に見せる」ってことはどういったことに注意したらいいのか、気づいたのも去年ぐらいです。0歳児がいらっしゃる場合には、はじめにお客様へ向けて「泣き声は赤ちゃんの言葉です。退屈していなくても、喜んだり、びっくりしちゃうと大きな泣き声をあげます。それも一緒に楽しんでください」という手紙を読むことで、ぜんぜん気にならなくなっちゃうんですよ。それはやってみてびっくりしました。
大人が身を乗り出すような一番いい場面になると、子どもはすごく動くんですよ。「最後のいいシーンになると小さな子がみんなお母さんのそばへ行っちゃう」と、人形芝居をされていらっしゃる永野むつみさん(人形劇団ひぽぽたあむ)がおっしゃられていましたけれど、子どもの中には体験したことのない感情を処理する方法がないから、いつもと違うものが沸きあがった時に不安になるんです。でも、劇場でそんな体験をできることが、すごく大事なことだと思います。
子どもには彼らの視線があるので、子どもに教えてもらうことがたくさんあります。子どもを見ているとわかるんですけれど、あるところで飽きて騒ぎ出しちゃう。「これは大人に言われて、見ろって言われているから」なんて、何も隠していない。それでも我慢しているところがちょっと面白い(笑)。僕は子どもが芝居を観るって、そういうところが大人と違うんじゃないかと思っています。
子どもに向けて
テント芝居をやっていた頃、学生時代から始めて10年ぐらいやってると、みんな子どもができて、子連れのお客さんがすごく多くなりました。旅公演をやっていると一回しか公演がないでしょ。だから、みんな連れていらっしゃるんですよ。その頃、三時間ぐらいの割と長い芝居、しかも、大人でもわけの分かんないような芝居をやっていたんです。それでも、子どもさんが来て「芝居がダメになった」なんて思った経験は一回もないんですよ。だから、じっと観てくれることに、割と自信があったんです。
本作を立ち上げる前に、三年間ぐらい沖縄のキムジナーフェスティバルで「子どもたちにどういった芝居を見せたらいいか」ということを、子どもたちと一緒にワークショップをやりながら考えていったんですよ。その成果で、僕も子どもたちに対する芝居のつくり方、考え方が180度変わりました。相当難しいシェイクスピアでも、その芝居が面白ければ、子どもたちはちゃんと観ます。よく、児童演劇の専門家が「90分を超えると子どもは集中力が切れる」とおっしゃいますが、そんなことまったくないんですよね。ずっと息を詰めて観ていませんけれども、退屈したり、集中したりしながら観ているんです。大雑把に言ってしまうと「子ども向けの作品というのはないんだ」と思います。
ワークショップを重ねて
僕が本作の台本を書いたんですけど、ワークショップを積み重ねて創ったので、竹屋さんを中心にした出演者、モダンチョキチョキズで活躍されていた磯田さんの音楽、それから美術・演出のtupera tuperaさんという人気絵本作家のコラボレーションを重視した作品になっています。tupera tuperaさんは、二人組のユニットなんですが、「立体絵本みたいなものをつくりたいんだけど、ビジュアルがものすごく大切だから、一緒にやりませんか」と誘ったんです。中川敦子さんは冷静で、亀山達矢さんはすごくこだわって妥協を許さない方とお二人のキャラクターがすごく異なっています。彼らにとって初めての演劇作品なので、再演のたび、ツアー先にも観に来て付き合うんですよ。例えば、ピンポン玉が汚くなっていたら、彼らが自分で塗るわけ(笑)。
何よりも子どものための作品をやっていて面白いのは、子どもっていう観客が素晴らしいので、やっている方もやり甲斐があるっていうか…。子どもって、人が出てきて「こいつ、つまんないな」と思うと二度と見ませんから。本当に残酷に見放しますよ。次の「こいつ面白い」ってヤツを待っている(笑)。だから、下手だったけど、筋が面白いとか、意義があるというのは絶対にない。それを媒介してくれる人間が面白ければ、筋も面白い。それはプレーヤーとして何をするべきなのかということをよく教えてくれる。だから、出演者にとって、とてもやりがいがあるんですよ。子どもはちゃんと自我が出来ていないから、好き嫌いがまだないんです。みんな自然なもんで、例えば「靴が欲しい」って言ったらそれだけ。お母さんが「赤いのが好きよね」って言ったら「うん」。「こっちが欲しい」という時は友だちが持っているとか、隣の子がそうやっているからという理由。絵なんか描く時、ほとんど、隣の子のを見ています。はじまりはそこです。急いで個性を求めないでそこから丁寧につきあっていかないと。
再演によって発見したこと
再演の中で発見したことって、いくつもあります。その中のひとつは、成長すると感度が鈍くなっていくけど、子どもの想像力は、大人よりずっと広くて、ものすごく色々なことを芝居の中で想像していること。それはすごく大きな発見でしたね。だから、あまり説明しなくても、子どもは付き合ってくれますよ。
沖縄で「みんなで海の絵を描こう」というワークショップをした時なんですけど、大半の子どもは自分でうまく書けてないって思っているんですよ。失敗したと思っている。「それ、かわいい。うまいね」なんて言われちゃうと、「いや、違う」となっちゃう。でも、徹底的に納得いくまでやってもらおうとするとね、ものすごい時間がかかっちゃう。
この作品では子どもたちが作品に参加できるピンポン玉を入れるシーンがあるのですが、なるべくみんなにやってもらう。大人からしたら、パッと切り上げた方がいいんですけど、ゆるい時間が流れて、その中で子どもたちが経験したこと、自分が入れたって満足感がね、すごく大事なんです。
こういうことって、やっていないと気づかないですし、やっている中で、子どもたちに教わったことは、たくさんあります。再演を繰り返すことで、さまざまな経験をし、ブラッシュアップをしています。2年ぶりの伊丹公演でも、またたくさんの新しい子どもたちと出会えるのをとても楽しみにしています。
『ピン・ポン』
平成28年12月4日(日) 11:00/14:30
チケット/
おとな 前売1,500円 当日1,800円
こども 前売500円 当日800円
【日時指定・全席自由】
公演の詳細は【コチラ】