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平成29年度演劇ラボラトリー 空晴プロジェクト 
岡部尚子インタビュー 

昨年6月から開講した演劇実践講座「演劇ラボラトリー 空晴プロジェクト」。その集大成として、3月3日・4日に『何度でも、もう一回。』を上演します。作・演出の岡部尚子さんに今回の作品について、当館ディレクターの岩崎正裕がお話を伺いました。


■空晴プロジェクトについて

岩崎:平成28年度から岡部さんにお願いしている「演劇ラボラトリー」の特徴は、「空晴プロジェクト」であるということです。「空晴」という劇団があって、その劇団員も関わりながら、一般公募で集まった人たちと演劇作品をつくっていただいています。看板俳優の上瀧昇一郎さんにも活躍いただいているのですが、劇団員のみなさんは、具体的にどのように関わってくださってるんですか?

岡部:講義のときは、みんなほぼ参加してくれていて、私一人で進める日はまずありません。うちの劇団員が2、3人、全員参加するときも多いです。講座の前半は、劇団員もラボ生(=ラボラトリー受講生)と一緒にゲームやエチュードに参加します。ラボ生に出した課題も一緒に発表するんですが、たまに、「それで大丈夫か?」と不安になるぐらいの出来のときもあります(笑)。この演劇ラボラトリーがひとつの劇団みたいな感じで、そのなかにうちの劇団員も混じっているので、ラボのメンバーにも面白いと思ってもらえているんじゃないかなと思います。

岩崎:初めての人たちと意思疎通をしていくうえで、劇団員が入っているのは、いいかたちで繋がりが生まれていきますよね。

岡部:私個人対ラボ生という関係だけでなく、劇団員がその間のワンクッションとして、いい接着剤になってくれています。今回の公演にも、小池裕之と駒野侃の二人を出演させることにしました。

 

■『何度でも、もう一回。』について

岩崎:一年間の集大成となる公演がまもなくですね。今年の作品の特徴は何ですか?

岡部:作品の根底は、空晴ならではの会話劇でホームコメディです。そこにプラスして、去年と同じく、アイホールやラボだからこそできることを取り入れました。劇場空間や舞台の使い方、音楽の使い方など、普段の空晴ではやらないことにチャレンジしています。あと、空晴では、上演時間一時間半ならリアルタイム一時間半の芝居ですが、今回の作品は、一幕三場構成にしました。これは私にとっても初めての試みです。

岩崎:えっ、そうなの? 岡部さん、時間を飛ばしたりしないの?

岡部:しないんですよ(笑)。最初と最後にイメージシーンを入れて、「もしかしたら何年後かの設定かな」と思わせることはしますが、大きく場を変えることは、会話劇ではやったことがありません。だから初めてです。といいましても、時間経過のスパンは短いです。一場が2018年3月、二場が2018年11月、三場がちょっと時間が戻って2018年1月なので。

岩崎:今年も、空晴の公演で過去に上演した作品をベースにされているんですよね。その作品と今回と、どこをどのように違うものに仕立てていくんでしょう?

岡部:ベースは『もう一回の、乾杯。』(2005年初演、2017年再演)で、一幕一場の作品です(笑)。そして、親戚が集まっている家のベランダが舞台で、家の中にはたくさん人がいる設定ですが、実際に登場するのは7人だけでした。今回の『何度でも、もう一回。』は三場ものですし、ラボ生14人とうちの劇団員2人を合わせた16人が登場するのが大きく違います。前の作品では、「あのおばちゃんはこうやで」と話題にして、お客さんに想像してもらうだけだったんですが、今回の作品では、実際そういう場面を見せることができる。親戚のおばちゃんといった登場人物の幅の広さは、うちの劇団ではなかなかできないので、「あー、それ、あるある」ということを実際に目の前で起こすことができるのは面白いです。

岩崎:映画でいったら、『もう一回の、乾杯。』はカメラが定点でベランダを撮っていたけど、今回は、カメラが家の中にまで入って、実際に親戚が集まっているところも全部撮っている、みたいなことですね。

岡部:舞台裏も見せています、という感じです。今回のラボラトリーの参加者は女性が多くて、おばちゃんパワーから若い女の子パワーまで舞台上で揃っているのは、空晴ではできない。この女性のパワーは、今回、特に面白いですね。

岩崎:親戚が集まるというエピソードで構成されるわけですが、その人たちは何のために集まっているという設定なんですか?

岡部:一場はお葬式。最初は「式」という情報しかないんですが、お葬式です。二場の8か月後は結婚式。三場は時間が戻ってその年のお正月。どれも親戚が集まる代表的な行事です。

岩崎:ということは、舞台は都会ではない?

岡部:田舎の大きな家、それも何代も続いている旧家という設定で、来客用の広間が舞台です。今回集まったメンバーが、20代~70代までの年齢層がある女性だったので、女系の家庭にして、婿さんばっかりもらっているという設定にしました。

岩崎:岡部さんの実体験や、親戚縁者の関わりのなかで見聞きしたものも反映されているんですか?

岡部:はい。うちの劇団員のエピソードも入れました。あと、秋ごろのラボで、冠婚葬祭の思い出を語ってくださいという課題を出して、そこで語られたエピソードからチョイスもしました。参加メンバーには人生経験豊富な人もいらっしゃいますので参考にしました。やっぱり、冠婚葬祭の出席率って、年齢を重ねれば重ねるほど多くなりますよね。若い人のなかには「まだお葬式に出たことありません」とか、「一回だけです」という人もいて、そういう意識の違いも面白かったです。

岩崎:メンバーの体験を語るところから始まって、それも題材として使いながら台本にしていったのですね。

岡部:そうです。あて書きもしています。劇団ではこんなに大勢の人は出演しないし、年齢層の幅も広くないので、最初は16人も登場させるのかぁ、大変だぁと思ったんですけど、書いていくとね、人物が足らなくなってくるんですよ。この家の系図を作ったんですけど―そうしないと誰かどうか私もわからなくなってくるので(笑)―、書き進めていくと、この人物も出てきたら面白いかもと思い始めて。そのうち、このエピソードを運ぶための誰かを出したいのにもう全員登場している…とか、この人物はこの情報を知っているから使われへん…とか。普段の倍以上の人数を使っているのに足らへん‼ となりました(笑)。楽しかったですけどね。

 

■劇団と演劇ラボラトリー

岩崎:参加メンバーは、演技の経験値がそこまで高いわけではないですよね。

岡部:劇団に入っている人が2人ほど、あとは年に1回公演に出ていますとか、ワークショップ公演に何度かでたことがありますとか、初めてですという人もいます。経験の差はありますが、全般的に舞台経験の少ない人が多いですね。

岩崎:そういう人たちと、この二年間、ラボラトリーをやってみて、空晴や岡部さんにとって良かったことはありますか?

岡部:「空晴プロジェクト」と銘打って、劇団ごと参加することで、集団としてもスキルアップしていく感じがあります。うちの劇団は、公演以外で集まって稽古することはほとんど無いんです。たまに上瀧がワークショップをすることもあるんですが、私はほぼしない。あと、うちの劇団員は、私の元・生徒が多いので、ラボでもう一回演技の復習をしている感じがしています。学校のときは訳も分からず聞いていたけど、今改めて聞くとわかるみたいな。だからといって劇団員がいろんなことを完璧にできているわけではありません。ただ、良くも悪くもラボ生たちのお手本になっているんじゃないかなと思っています。課題発表や稽古を通して、あんなことをやってもいいんやとか、あれをやったらツッコまれるんやとか。そういう指針にもなっているんじゃないかなと思っています。

岩崎:劇団の若い役者にとっても、演技とはこういうものなんだと意識的に再確認する場にもなっているんですね。

岡部:劇団員にとっては、「それは初めて聞いた」ということはほとんどないと思います。ただ、普段の稽古で言っていることを、ここではもっと噛み砕いて伝えています。劇団だと「一聞いて十わかってよ!」という思いもあるんです。でも、ラボでは、考え方も年齢も違う人たちが集まっているので、こういう言い方をしてみよう、ああいう言い方をしてみよう、この人にはこう言ってみようと工夫することで、私も伝えるための言葉が増えていくし、コミュニケーションの取り方も劇団と違っています。その違いは私も劇団員も互いに感じているでしょうし、ラボ生もそういう私たちの関係をみて、演技について学んでもらっているので、面白いかたちだなと思います。

岩崎:苦労も多いかもしれませんが、苦心しているのはどういうところですか?

岡部:言葉をたくさん持たなければいけないと言いましたが、すぐに身につくわけではないので、そこは苦労します。劇団員だとこういう言い方で伝わるけど、ここではどう言えば伝わるだろうかとか。講義の内容でも、これをわかってもらうにはどうすればいいのか考えます。公演の稽古に入ったときに、前半でやった内容はこのための準備だったんだけど、イマイチみんなのなかで繋がってないなと感じると、もう一回戻ってやらなあかんのかなとか、別のアプローチをどうしようかなとか。私が持っている方法が少なかったりするともっと勉強せなあかんと思ってしまいますね。それに、私よりも人生経験をお持ちの方がたくさんいらっしゃって、そういった人たちとお付き合いをすることが普段の劇団では少ないので、面白みがあります。自分の持っているものだけでは勝負できないと思うと、こっちもまだまだ勉強せなあかん、ウカウカしていられないと思いますね。

岩崎:年上の人と一緒にやると、鍛えられるところがありますよね。

岡部:はい。人間的にも鍛えられますよ。

 

■次年度に向けて

岩崎:岡部さんには次期の演劇ラボラトリーもお願いするのですが、三年目の作戦はありますか?

岡部:劇団以外に書き下ろした女性中心の作品が一つあって、空晴で上演することは無いだろうと思っていたんですが、でも、もしかしたら、この演劇ラボラトリーならできるんじゃないかなと。もちろん男性キャストも必要ですが。あと、私が去年から古典芸能にハマっていて、実際、絡めるのは難しいだろうけど、何か絡めてみたいなあとぼんやり思っています。自分が経験してプラスにしてきたことを、劇団以外で還元していく場があるというのは面白いなあと感じています。

岩崎:劇団だとひとつの中心に向かう作業はできるけど、こういう現場は幅が広がる作業ができますよね。 

岡部:劇団員も楽しく参加していて。去年の最後の講義で、なぜかうちの劇団員が泣き出して(笑)。ラボ生は一回にかける情熱で感極まるのはわかるのですが…。でも、その様子をみて、一年間一緒にやってきて、もう一つの劇団のようになっていることがわかって嬉しかったです。

岩崎:何も無いところから一つのことを成し遂げるんですから、それを目の当たりにすると感極まるよね。みんなが一緒に走って舞台ができる、その伴走者として劇団員がいてくれたからこそ、率直にいいなと思って泣けたんでしょうね。演劇が信用できるよね。

岡部:ラボ生のことを思って大泣きしていたので(笑)。本人たちも演劇っていいなと改めて気づけたのではないかなと思います。劇団員のそういう一面を知られたことも嬉しかったです。

岩崎:この演劇ラボラトリーは、お芝居を経験している人がいてもいいし、初めての人も歓迎するし、ということで来期もあるということですね。

岡部:はい。私はいつもこの公演が今の私の最高作と思ってやっています。だから、去年の公演終了直後は、いい公演だったなと感じていたんですが、振り返ると、こういうこともできた、ああいうこともやりたいと思って(笑)。そのやりたいことを今年の公演でやっています。来年はまたプラスアルファされていくんだろうなとも思っています。それが自分としても楽しみです。でも、まずは目の前の今年の公演。良いものをしっかり届けられるように頑張ります。

岩崎:出演者には、舞台セットのなかで照明を浴びて演じるのが初めての人もいるわけで、ここからが彼らも面白いですよね。袖で待機する独特の雰囲気を経て舞台上に出るという。

岡部:そして、お客様がいるっていう(笑)。

岩崎:楽しみにしています。

2018年2月 アイホールにて


平成29年度AI・HALL自主企画
演劇ラボラトリー 空晴プロジェクト公演
『何度でも、もう一回。』
作・演出/岡部尚子
平成30年
3月3日(土)19:00
3月4日(日)12:00/16:00
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