AI・HALL自主企画として、「真夏の會」と「極東退屈道場」が8月11日(木)〜14日(日)にそれぞれ 『エダニク』『サブウェイ』の上演を行います。「真夏の會」の原真さんと、「極東退屈道場」の林慎一郎さんに、 作品についてお話いただきました。

■「真夏の會」と『エダニク』について
原:  元クロムモリブデンの夏さん(俳優)とふたりで「面白い芝居をつくろう」と立ち上げたのが「真夏の會」です。 このユニットでは、作・演出を特定せずに、毎回違った方に依頼する、というのをコンセプトにしています。 そこで第一回目としてお願いしたのが、脚本は売込隊ビームの横山拓也さん、演出にスクエアの上田一軒さん。 実はこの『エダニク』が旗揚げ公演で、次回作をやろうと思ったら先に『エダニク』の再演が決まってしまったので、 まだこれ一本しか公演していません(笑)。

■なぜ横山さんと上田さんに作・演出をお願いしたのか
原:  横山さんとも上田さんとも面識はあったのですが、実は舞台でご一緒する機会が全然なかったんです。 ただ、横山さんは、ウィットに富んだ会話と、システマチックというかスタイリッシュというか、 そういうものがうまく組み合わさった台本を書かれる印象がありました。上田さんは、人間くさいというか、 人間描写が特徴の演出家さんだと思ってましたから、横山さんの台本に、上田さんの演出が乗っかったら、 作品としてのクオリティは勿論、役者としてもやりがいのある作業ができるのではないか、と考えたのがスタートです。

■台本のテーマについて
原:  横山さんから、台本について何か注文はありますか? と聞かれたときに、ポップな感じではなく、 ドロッとしたものが出る横山さんのお芝居がやりたいと思ってます、という風にお願いしました。 で、横山さんから「このメンバーでやるんだったら、こういうものがやりたい」と、返ってきたのがこのプロットでした。
  ただ、屠畜場の話と聞いて、何かしらの覚悟は持ってやらないといけないな、と感じました。  事実がどうあれ、厳しい見方をされる可能性がある題材になるので、  作品としての必然性を納得してもらえるようなものにしないと駄目だなと思いました。

 

■初演のときの手ごたえ
原:  役者としては色々と思うことはありましたけども、「横山さんと上田さんの組み合わせで面白いものを作る」 という企画に関しては、まさに狙い通りの作品がつくれたな、という手ごたえが非常にありました。 予想よりもかなり多くのお客さんに来ていただけましたし、観に来ていただいた方や関係者からの評判も非常に良くて、 「ぜひ再演を」とすぐ言っていただけました。

■再演にあたって
原:  今回は出演者も演出家も初演と全く同じなので、基本的には前回のものをもっとブラッシュアップさせる、 という方向で考えています。ただ、周りの状況や社会が変わっているところで、 見え方は全く変わってしまうかも知れないですけれど…。


■『サブウェイ』について
林:  外国の映画監督が日本の地下鉄を舞台にしてドキュメンタリーを撮っているというエピソードを導入にして、 7人分のインタビューを軸に構成され、話が進んでいきます。登場するのは、オフィス街で働く人や、学生や、 教師や、図書館の司書や、普段あまり地下鉄は使わないけど自転車盗られたのでという看護婦や、 バイトの集合時間が早いのでこの電車に乗っているフリーターだったり…。 その中で、職場でのエピソードや、余暇の過ごし方や、電車に乗って何を思っているかとか、 自分がなぜこの街に出てきたのかという経緯などをつらつら喋る感じで展開します。地下鉄の名称は、 特に路線を規定しているわけではなくて、字幕で「大阪でいえば御堂筋線」みたいに出したりして、曖昧にしています。
 この7人の人たちは知り合いではありません。ですが、もしかしたら同じ時間帯に乗り合わせているかもしれないということが、 言葉の端々からわかるようになっています。乗り換えですれ違ったり、同じ車両にいたことがあったんじゃないかな、と。
 また、7人のモノローグを通して、あるリズムがずっと流れています。地下鉄を言葉の羅列で描写するというシーンがあるんですが、 そのときにもひとつのベースとなる音を使っていて、地下鉄の中でどうやらそのリズムがずっと流れている。 その音楽が何なのかというのを映画監督が追っていき、最後にこれだ! という結論を出すんですが、 これが明らかに間違っているというか、とんでもないというか…(笑)。

 

■初演のときの手ごたえ
林:  お客さんは一応喜んでくれていた感じです。とはいえ、最後に、自分で積み上げて自分で壊すかあ〜? と、 呆気に取られてる感じだったんですけど(笑)。
 作品の見え方としては、観ている側が「絵」として見てくれた感じはあります。 俳優たちは個々の作業をすごく理解してやってくれているんですけど、それがお客さんの目の前でどういう絵になっているのか、 どういう風に作品として成立しているかは全くわからないと言っていまして。レイヤーというか層が色々重なっていて、 それが入れ替わり立ち代わり重なって一枚の絵になったり、 その層の重なり方みたいなものをお客さんが見てイメージをつくっている、という感触がありました。 最初から最後までこうして一本のお芝居にしてますよという説明を、演じている側が持たない状況で流れができているので、 お客さん自身が何か掴んでる、みたいな感覚がすごくあります。皆さん、観終わったあとに、楽しかったとか、 すごく笑ったと仰ってくれるんですけど、実は客席には全然笑いは起きなくて、その時その時で感じていることが違うので、 声を立てて笑いにくいというか牽制しあうというか、すごく緊張感のある劇場でした(笑)。ただ、自分のツボというか、 ひっかかったところではすごく感情が動かされた、というふうに仰ってくれました。

■再演にあたって
林:  今回は、もう少しレイヤーを増やすなり減らすなりという作業を意識的にやろう、と思っています。
 また、地下鉄の車内には広告が溢れている、というのがモチーフだったので、もっとCM的な要素を意識して、 それに支配されている感じがあってもいいのかな、と。先般からの原発を巡る報道で、首相が出てきて話すにも、何かこう、 キャッチ―な言葉を言わなきゃいけない、みたいな風潮にどんどんなっている感じがするので、 その辺の「言葉自体が広告になっている」ことを、より意識しようと思っています。
 あと、初演は出演者が7人だったんですけど、今回は8人にしました。映像のオペレーターを舞台に上げます。 前回は「映画の撮影」を、外側からお客さんが見る、という方法だったんですけど、今回はもう一人、 舞台の上でそれを横で眺めている人を出してみたらどうなるだろう、 また見え方の構造というのがちょっと変わるんじゃないだろうか、と思っています。 それから、言葉の鮮度というのが、初演から半年しか経っていないんですけど、かなり変わっている感じがあります。 もちろん社会風俗的なネタは古くなると思うんですけど、それは古いまま残してみると、 「古さ」として立ち上がってくるところもあるだろうし。 あとは昨年の11月の時点では「スマホ」なんて言葉は馴染みがなかったのに、半年でここまで変わるのかと、 そういうところを少し意識してみたらいいかな、と思っています。


■アイホールとの関わり
林:  僕は現在、「伊丹想流私塾」の師範と、「アイホール演劇ラボラトリー」の講師をしています。
原:  僕は「アイホール演劇ファクトリー」の出身です。今回のメンバーは出演者もそうですし、作・演出もそうですけど、 みんなアイホールの何らかの企画で出会ったり、というような人がほとんどですね。そういう意味で、 アイホールで再演させてもらって、この二本立てでやらせてもらえるというのは非常に嬉しいですね。
林:  伊丹想流私塾出身者が四人いますね。
原:  役者では、僕と小笠原聡さんが、想流私塾の塾生でした。今回の書き手である林さんも横山さんもやはりどちらも塾出身で、 北村想さんの教え子です。
原:  アイホールで再演することになった経緯としては、アイホールの館長が『エダニク』の初演を見に来てくれて、 「ぜひ再演を」と言ってくれたのがきっかけです。その後、横山さんの戯曲が劇作家協会の新人戯曲賞を受賞して、 東京でもやりたいねという話になりました。
林:  うちは、今回東京でさせてもらう王子小劇場の芸術監督の玉山さんに、たまたま観ていただいたんです。 玉山さんは、昨年のKYOTO EXPERIMENTを観に来られたんですけど、うちが平日に公演をやっていたので、 寄ってから帰ろうかと(笑)。何のつながりもなかったんですけど、すごく気に入ってくれて、 終わったあとに「王子でやらないか」と声をかけていただいて、それで東京公演が決まったんです。 でも日程とかが厳しい感じだったので、ちょっと難しいかなと思っていたタイミングで、原くんから丁度お誘いがあって。 二劇団一緒に、ということだったら、集客的にもスケジュール的にも敷居が低くなるし、できるかな、と。
原:  その林さんとのやりとりを、アイホールで打合せ中にしていて、館長が横で聞いていて「じゃあ伊丹でも二本しなよ」と。 で、二本やるんだったら、同じ日に二本とも観れるようにしたくて、ちょっと無茶なんですけど、 どちらも乗り打ちで初演をやっているのでいけるんじゃないかと思いまして、こういう日程にしました。

■再演できることに対して
原:  前回できなかったことは当然あるわけですし、もっといけるはずだ、というのはみんな思っているので、 そこに取り組めるというのは嬉しいです。自分たちも二年半前とは物の見方から何から変わって、 そこでこのホンがどう見えるのか、やはり再演が決まらないと見てみる機会はないですから。 演出も役者も異口同音に、すごく発見があると言っています。稽古が始まって改めてその作業ができるというのは、 幸せだなあと感じています。
林:  『サブウェイ』初演は、仕込んだその日に公演というタイトなスケジュールでやったので、 まだ壊れていないのに捨てるおもちゃみたいな(笑)、遊び足りてないよ、みたいな感じはあったんですけど、 今回もう一回できるということで、かなりご褒美をもらったような感覚です。いっぱい余白があったし、 その辺をもっとやりたいし、楽しみたいです。
 根っこの部分を伝えることで初演は精一杯だったんですけど、 再演ではひとつ力みが取れるというか憑き物が落ちるというか、 初演のときの「これをしなければ」というのがスッと抜けた状態から、もう一回、 この世界観の中でどうやるかを捉え返せている感じがあるので、それはすごく面白いです。 また、初演で“踊り”という振付のレイヤーを原和代さんに担ってもらえて、実際の上演で、 なるほどそう見えるんだというのがわかったところもあります。 それがこれからの極東退屈道場の作業においても有効だろうなと思うので、 そこら辺の“探り”ができるのが面白いし嬉しいですね。

(2011年7月)

【AI・HALL自主企画】
真夏の極東フェスティバル
真夏の會『エダニク』/極東退屈道場『サブウェイ』
8/11(木)15:00[サブウェイ] / 19:30[エダニク]
8/12(金)15:00[エダニク] / 19:30[サブウェイ]
8/13(土)14:00[エダニク] / 18:30[サブウェイ]
8/14(日)11:00[サブウェイ] / 15:00[エダニク]