AI・HALL共催公演として、MONOが6月30日(木)〜7月4日(月)に 『空と私のあいだ』の上演を行います。 作・演出の土田英生さん、共同執筆の横山拓也さんに、作品についてお話いただきました。

■『空と私のあいだ』について
土田: もともと高校生に書き下ろした作品だったので、当初は「今回も高校生とやりたい」という思いはありました。 ただ、これは実際に稽古のことを考えると非常に大変なことなんですね。初演は10年以上前で(※注)、当時、 僕もまだ32、3歳だったのですが、稽古が終わると誰かしらがアイホールの外で泣いていてたり(笑)、 非常に精神的にハ―ドな中で、なおかつ彼女たちの恋愛相談なんかにも乗ったりしながら(笑)、という稽古でしたから。 それを考えると、さすがにもう自分にはそのバイタリティーはないなと思いました。
(※注)『空と私のあいだ』初演版について… 戯曲は、1997年に『AI・HALL中学高校演劇フェスティバル』の大賞受賞校である兵庫県立伊丹西高等学校への副賞として、 土田英生が書き下ろした。その後1999年に、「AI・HALLハイスクール・プロデュース」の第1回公演として、 作者本人の演出で上演。キャストは伊丹市内の現役高校生を対象としたオーディションによって選出された。

土田: 僕は関西、京都を本拠地にしていますし、 「関西でみんなを巻き込んで、なるべく盛り上がる形でモノ創りができないだろうか」という思いがありましたので、 今回は、高校生に限らず関西を中心に広く出演者を募集する、という形をとらせてもらいました。 結果的に、100名近くのご応募を頂き、その中で書類審査、ワークショップ形式のオーディションを経て、 最終的に13名の方たちに出演してもらうことになりました。初舞台のフレッシュな子から大先輩まで、 バラエティーに富んだキャストが集まっています。この13名に加えて MONOのメンバーである尾方宣久、金替康博と、 いつも客演をしていただいている山本麻貴さんを加えて、総勢16名出演になります。 また台本に関しても他のクリエイターさんとタッグを組みたいという思いがあり、 以前からシンパシーを感じていた横山くんをお誘いしました。
横山: 先ほど土田さんから「シンパシーを感じていた」というお話がありましたが、 むしろ僕の方が土田さんを追いかけてきた、という感じです。 初めて僕がMONOのお芝居を拝見したのが、 1999年にアイホールで再演された『−初恋』で、自分が演劇でやりたいと思うことが、 全てそこに詰まっているような感じがしました。ですから、僕には「土田さんを追いかける/超える」ということを目標にして、 がんばってきたようなところがあります。
 最近、僕は劇団(売込隊ビーム)を休団したんですが、 実は自分の作品創りや、劇団という集団のあり方に、ずいぶん迷っていた時期がここ数年ありました。 自分がもう一度前を向けるきっかけを探している、というような感じだったんです。 そんな時に、MONOの制作の垣脇さんから「今回の作品に関わってもらえませんか」というお誘いをいただき、 自分としては願ったり叶ったりという感じで、二つ返事でこれをお受けしました。

土田: 初演のときのフォーマット(構造)はそのまま使用して、話の内容はまったく新しいものにしました。
 お話としては、基本的に“15分間”の物語なんです。舞台は喫茶店。360度の舞台を4分割した形で、 4つのテーブルがあります。いちばん前面に来ているテーブルがメイン舞台になりますが、全体としては、 この喫茶店で進行する“15分間”を4つの角度(テーブル)から見ていただくという構造になります。
 そこに1シーンだけ、翌日の喫茶店の店員によるシーンを挿入して、“15分間”の後に何が起きたのか、 というようなことが何となく分かってくる、という構図になっています。
 話の割り振りとしては、僕と横山君がそれぞれ二つのテーブルの話を書いています。

■作品内容に関して
土田: ひとつひとつのテーブルのエピソードは非常にミニマムな内容で、個々の身の回りの問題ばかりなのですが、 背景として、この町には5年くらい前から、電波塔らしきもの、可愛い“ユルキャラ”の塔が建っている設定にしています。 芝居上では皆が「ツルヒメの塔」と呼んでいますが、それが建ってからこの町では原因が不明のまま人が死んでいく。 どうやらこの塔が関係しているらしい。しかし、この因果関係に登場人物たちは誰も気付かない。 つまり、「事実を知らないまま、人々が無邪気に笑っている」というような作品です。
 元々は年明けくらいにこの設定は決まっていたんですが、3月に原発の事故が起きて、現実にそういうことが起こってしまっています。 やや演劇としては後を追うという形になってしまっていますけど、設定の変更はしませんでした。
横山: 例えば女子高生たちはこの「ツルヒメの塔」を、「可愛い」とか「写真を撮ったら幸せになれる」といった感じで、 和気藹々と楽しんでいるんです。ただ一方で、「体調が悪くて1ヶ月前に会社を辞めた男」が登場する2話では、 「頭痛の原因がその塔にあるんじゃないか」というようなことが次第に明らかになっていきます。
土田: その会社を辞めた男が異常な額の退職金をもらっているとか、父親を頭痛で亡くした喫茶店の息子が、 その会社から「店のスポンサーになりますよ」なんて言われて喜んでいる、とか。結局、その塔を建てた会社が流す金で、 町の人たちが何も知らずに笑っている、というような話になっています。
 ただ、1話目の「まるで話が通じ合わないカップルの話」や、3話目の「DVから抜け出そうとする主婦たちが、話しているうちに、 つい、お互いのDV自慢になってしまう話」というように、ひとつひとつの話は別段、強く背景とリンクしているわけではありません。 全体を通して見たときに、そういった状態の中での人の有様が浮かび上がってくるような感じになればいいな、 という風に思います。
 ちなみに4話目は、女子高生3人の非常に可愛い話です。最後だけはジーンとするような話にしたいと思いまして(笑)。
横山: 入院している同級生の女の子がいて、これも塔の影響なんですが、そのお見舞いに行けなかった女子高生の話です。 女の子が、自分が嫌われているんじゃないかということを思って、反省する話ですね。
土田: 彼女たちのテーブルの稽古は、なかなか厳しく出来ない(笑)。僕もちょっとだけ歳をとったようで、 若い子がしゃべっているだけで意味なくジーンときてしまいますので(笑)。

Q&A
Q.横山さんが執筆する際に、土田さんのアドバイスで参考になったことはありますか?
横山: 台詞を誉めていただくことはよくあるんですが、どうも僕の筋道の立て方が、途中でズレてしまうようなんです。 始めにいきなり枝を広げておいて、後からどの枝にしようか選んで進んでいる、といったような状態なので、 土田さんからは「もっとしっかり幹を作って、 もっとシンプルに物事を紡いでいかないといけない」というアドバイスをいただきました。 本当に基本的な話でお恥ずかしいのですが。
土田: ストレートプレイを書こうと思った時は、その幹がしっかりしていないといけない。 枝葉の面白さは必要ですが、幹が真っすぐ立っていないと推進力に欠けてしまうんじゃないのか、と、まあ、 そういう話はしました。
横山: 実はこれらの指摘は、劇団の作品創りの際に、役者たちから指摘されながらも、 自分でも受け入れることができなかった問題でもあったんです。 それが今、土田さんの言葉になって初めて自分に浸透してくるところがあります。 自分が何にこだわっているのかが分かってきたという感じです。
 土田さんのアドバイスは、非常に的確なレクチャーでもありますし、まだ自分は成長できるというか、 自分自身でうまくいかない部分が明確に提示されたという感じがします。 30歳を超えても、そういった「学びの時間」を持てたということは、本当にありがたいです。

Q.土田さんは、今回のように若い方々と作品創りをする上で、 何か感じられることはありますか?
土田: 普段、仕事をしていると周りは大人の方ばかりですから、若い人と作品を創るのは単純に嬉しいです。 若い人たちのことは、例えば記事になったもので読めても、やはり実際に触れてみると<襞>が見えるというか。 人間ですから、年齢で何が違うなんていうことはあまりないですが、ただ自分が忘れていたこととか、 「ああ、今の子たちはこういう考え方をするんだ」とか、今回の作品にどう役立つかは分からないですが、僕自身としては、 非常に影響を受けています(笑)。

Q.MONOの普段の作品と違い、 16名という大人数のお芝居ですが、群像劇としての狙いは何かありますか?
土田: 僕の書くものは、長い作品でもなかなかはっきりとした主役がいないような作品が多いので、 そういう意味では、毎回、群像劇だと言えるとも思います。それでも、やはり人物のモチベーションや動線を追って芝居を見せたり、 状況が変化する中で登場人物たちの心の動きにお客さんが一喜一憂するというような芝居が 普段のMONOの芝居だとすると、 今回は一話ずつは“15分”の断片ですから、そこまで各々の気持ちは追えない。各々の「状態」しか見えない中で、 16人の「状態」が積み重なった時に、最後に16人がいる場所よりも大きな、 大げさに言ってしまえばタイトルの通り「空と私のあいだ」であったり、「世界」であったり、 そういったものが浮かび上がるような、或いは逆に「ああ、この無数の一瞬一瞬が世界を構成しているんだな」 というようなことが見えてくればいいな、と思っています。
(2011年6月10日 大阪市内にて)

【AI・HALL共催公演】
MONO特別企画vol.5『空と私のあいだ』
6/30(木)19:30、7/1(金)19:30、7/2(土)14:00/18:30、
7/3(日)14:00、7/4(月)14:00