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AI・HALL共催公演として、燐光群が『たった一人の戦争』を
12月3日(土)〜6日(火)に上演します。
この公演に先駆けて、作・演出の坂手洋二さんに、作品に
ついてお話を伺いました。
【AI・HALL共催公演】 燐光群『たった一人の戦争』
12/3(土)19:00、12/4(日)14:00、12/5(月)19:00、12/6(火)14:00
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2011年は、ダムや基地問題を取り上げた作品をいくつか発表しました。
『推進派』(燐光群)では徳之島をモデルに、大滝秀治さん主演の『帰還』(劇団民藝)では八ッ場ダムの問題を、
『普天間』(青年劇場)では沖縄の基地問題を取り上げました。
僕自身、普天間の問題にきちんと向き合いたいと考えていましたし、八ッ場ダムや米軍基地や放射性廃棄物といった、
公共事業として行われていることには共通する問題があると思っています。
今年は、そういったかねてからの懸案事項であったテーマを作品にしようと考えていた頃、3・11の震災がありました。
津波や原発の問題もあるけれど、もっとその周辺のこと、例えば沖縄の基地のことなら、辺野古区への移転問題だけでなく、
全駐労といった基地労働者やその雇用についてなど問題が山のようにあると考えています。
また、六ヶ所村の核廃棄物処理のことなどにも、多くの問題が残っていると思います。
東京都による福島の瓦礫受入れの件もですが、公共的な事業にはやっぱり交付金の問題も絡んできますよね。
日本は資本主義国家のはずなのに、公共的なことが恣意的に動いているように感じます。
会議室という密室のなかで、雑な感じで様々なことが決められ、実行されている感じがします。
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もともと今回、構想段階ではSFにしようと思ってたんですね。タイトルも『たった一人の戦争』ではなく、
『たった一人の宇宙戦争』(笑)。昔、アメリカでオーソン・ウェルズの『火星人襲来』というラジオ番組がありましたが、
日本で同じことをしたらどうなるだろうというのが最初の着想です。
だから、今回は宇宙人が出てくるし、宇宙戦争という枠組みも取り入れています。
あと、今、アメリカ文学会でもてはやされている、「プラネタリティ(=惑星思考)」も取り入れています。
この概念は、今まで陸を中心に考えていた物事を、海の視点から世界や文学を見直していこうという思考の枠組です。
僕は以前、『くじらの墓標』やメルヴィルの『白鯨』をモチーフとした作品を創ったこともあって、
学会に呼ばれて講演をしました。もともとSFは好きなので、宇宙の話をちゃんとやろうと思ったのと、
陸(おか)との繋がりが断ち切られた状況を描きたいと。そのなかで、今の現実と向き合ったとき、単なるSFじゃなく、
もっと演劇的にワクワクする方法を取れないかと考えました。
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今回は、高レベル放射性廃棄物の地層処分所に適した環境を研究する施設が舞台です。
この研究所は岐阜県東濃(とうの)地方にある瑞浪(みずなみ)という地域に実際にある研究所がモデルになってます。
日本は、イギリスやフランスに頼んでガラス固化体にしてもらったりして最終的に高レベル放射性廃棄物4万個を、
どうにか処分しなくちゃいけない状況なんですね。今、返還された一部を六ヶ所村に保管しているんです。
この高レベル放射性廃棄物の処分方法として、国際的には地層処分が選ばれていて、世界中で唯一、
その最終処分地として決定しているのは、フィンランドのオルキルオトという場所のみで、
その様子がフィンランドのドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』に描かれています。
日本では、北海道の幌延町(ほろのべちょう)と瑞浪が、「超深地層研究所」という名前で地層調査が行われています。
この瑞浪はウランが出たというだけで、研究所になったんですね。
東濃の人たちは、あくまで研究用で「廃棄物は持ち込まない」という約束のもと請けたはずなんですが、たぶん、
結局ここが最終処分地になるという可能性は否めないと誰もが思っているはずです。
もちろん、東濃の人たちもここに埋めていいとは思っていないんですよ。
この研究所では地下の様子を、月1回、実際に見学できるんですね。僕も何度か行きました。
そして、見学の前に、放射性廃棄物の地層処分についての説明が書かれたパンフレットを配布されて、
地下行きのエレベーターに乗るんです。
それで今回、地下1000メートルに作られている研究所に、お客様も一緒に行こう! という設定にしました。
8人組みになってもらって、地下に降りるエレベーターに乗るという設定から舞台は始まります。
いくつかのグループに分かれて地下に降りていくのですが、その中で逸れて迷子になった班があって、
その人たちがどうなるのかを、みなさんに客席で見ていただくという構造です。
途中、その人たちは地下に閉じ込められてしまいます。もちろん、フィクションですよ。
地下では、突然、レンガ職人が現れて、ウラン残土入りのレンガを造るシーンがあったりします。
これは「人形峠」の事例からアイディアをいただいています。岡山の人形峠は、日本で最初にウランが発見された場所で、
当時は岡山の自慢の一つだったんですね。今は立入禁止になっているんですけど。
でも、出てきたウランはあまりいい質のものではなかったんですね。
一部をアメリカに売ったんですけど、持て余したウランの残処理として、
6年前からウラン残土入りのレンガを造って販売しているんです。
0.22マイクロミリシーベルトの放射線を出すレンガが、日本では公共施設の建設などに使われているんです。
このレンガ造りと土を捏ねるシーンは、ちょっとアングラっぽくなっています。久しぶりにアングラをやりたくて(笑)。
ある意味、今回は観客参加型演劇ですね。お客様は開演後、途中で指定のお席にご案内します。
東京・高円寺での公演では、(劇場が地下にあるので)役者と観客が一緒にエレベーターで降りていってます。
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今回は、内容的には重いテーマを、いかにチープに、ごっこ遊びのように描くかが、見どころだと思います。
複雑なものがどう収斂していくか。そして、今回は主題歌があります。Zabadakの吉良知彦さんに作曲をお願いし、
キャラメルボックスなどでも活躍されている小峰公子さんに指導を仰いでいます。
こういうのは劇団をやっている面白さだと思いますね。皆、一人ワンフレーズのオリジナル曲を作って歌って、
台詞を喋っている時に急に歌い出すようなシーンもあります。そこらへんは、観て是非あきれてください(笑)。
シャーシャーと何をしとるんだと(笑)。でも、その現実感の無さが反対に恐ろしいことでもあると気づいてほしい。
世界では今も、日本人はどうかしているんじゃないかと言われているんですよね。福島の原子力発電所まだ止まっていなくて、
今なお放射線を放出し続けている。でも日本はそれを認めようとしていない。今日のまさにリアルなことを、
舞台上でファンタジーにしています。幻想から現実を見てほしいと思う。実はみんな、
心のどこかで核廃棄物はいっそのこと福島に置いちゃえばいいんじゃないかと思っていないか、そこに警鐘を鳴らしたい。
核廃棄物の問題は、私たちの世代で終わるものではなく、次の世代に引き継がれる問題です。
今、私たちが反省しなきゃいけないのは、無感覚になっているということ。
今回は、核廃棄物の問題、一時帰宅の問題、沖縄の問題、そういったものが地続きに現れて意識せざるを得なくなる、
まさに今を象徴している劇だと思っています。
(2011年11月下旬 大阪市内にて)