舞台芸術による「ことば文化」推進事業
青年団『銀河鉄道の夜』
アイホールでは、年に一本、子ども向け演劇作品の上演企画を継続して実施しています。
本年度は、青年団『銀河鉄道の夜』を11月30日(金)〜12月2日(日)に上演する運びとなりました。
この作品は、宮沢賢治の名作をもとに、2011年にフランスの子どもたちのために製作されました。続いて作られた日本語版も、東京、沖縄、鳥取、そして東日本大震災復興支援事業として東北3県でも上演されています。
国内外で好評を博する『銀河鉄道の夜』について、作・演出の平田オリザさんにお話いただきました。
■作品製作・上演のながれ
『銀河鉄道の夜』は、もともと2010年から2011年にかけて、フランスで創った作品です。サルトルヴィル国立演劇センターから、2年ごとに開催される児童演劇フェスティバルの参加作品として依頼されました。パリ近郊のイヴリーヌ県内を巡演するので、できるだけ舞台装置が簡素で、俳優が4人まで、1時間ほどの子ども向け作品を、というオファーでした。そこで宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を提案したところ、翻訳を読んだプロデューサーが非常に気に入ってくれ、舞台化することに決まりました。
2010年春に一度フランスへ渡り、オーディションで3人の俳優を選びました。最後の1人は、フランス人と結婚しパリ在住のうちの劇団員に演じてもらうことにしました。
夏には、一週間ほどのプレ稽古をしました。ここで翻訳済みの台本をもとに、俳優たちと台詞のひとつひとつをチェックし、修正を加えていく作業を行いました。また、通し稽古を地元の小学生や先生方に見てもらい、感想を求めることもしました。この時の手応えが非常によかったので、すぐに日本語版の製作も決めました。
本格的な稽古は12月中旬から始め、劇場併設のレジデンス施設に1ヵ月ほど滞在して、作品を完成させました。2011年1月から約2ヵ月かけてイヴリーヌ県内を回り、およそ40ステージの公演を行いました。
しかし、その間に東日本大震災が起こり、途中で上演の意味が大きく変わってしまいました。ご承知のとおり『銀河鉄道の夜』は友達をうしなう話でありますし、作中にも「髪が濡れてるよ」など津波を連想させる台詞が出てきます。県内の巡回を経て、4月のパリ日本文化会館での公演では、作品を見た子どもたちからの被災者へのメッセージが会場ロビーに掲示され、募金もたくさん集まりました。
フランス語版はその後、沖縄のキジムナー・フェスティバルや、韓国および台湾の児童演劇フェスティバルでも上演しました。
いっぽう日本語版は、同年5月に、こまばアゴラ劇場『平田オリザ・演劇展 vol.1』の一環として、青年団の俳優によるリーディング公演を行いました。こちらも評判が良かったので、明けて今年から本格的に日本語版を上演することになりました。まず、この4月にアゴラ劇場で初演を行い、7月に沖縄、8月には東北3県(岩手、宮城、福島)で公演を行いました。9月には鳥取県にある鳥の劇場の演劇祭に参加し、今回の伊丹公演に至ります。
■作品の内容について
宮沢賢治を知らないフランスの小学校低学年の子どもたちに『銀河鉄道の夜』を理解してもらうため、男の子が友達の死を乗り越えて成長していく物語をひとつの軸に、とてもシンプルに構成しました。奇をてらわず、原作を非常に分かりやすい形にしたのです。日本でも評判が良いのは、それがかえって功を奏したのかもしれません。というのも、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』には、皆さんも私も、それぞれ思い入れがありますから、おそらく日本で自分だけで作っていたら、もっと他の要素をつけたしたり、例えば北村想さんの『想稿・銀河鉄道の夜』のように、自分なりに書き変えたりしていたでしょう。しかしながら海外で、フランスの演劇人と創作することで、シンプルで、かつ、誰にでも理解しやすく、原作を読んでみたいと思ってもらえる作品になったのではないかと思います。親子でも楽しめますので、ぜひ多くの方に見て頂きたいと思います。
■関連企画について
12月1日11:00の回の終演後、高校生向けのワークショップを行います。また、アウトリーチ活動として、伊丹市立東中学校でもモデル授業を実施します。まず公演を見てもらい、その内容に関わる課題に取り組み、発表してもらおうと考えています。モデル授業は、伊丹市内でも毎年のように行っていますが、今回は観劇と授業を結びつけたところが新しい内容となっています。
■Q&A
Q. 登場人物の配役や、フランス語版/日本語版の違いは?
フランス語版は4人でしたが、日本語版では5人の俳優が登場します。カムパネルラ役とジョバンニ役が固定で、残りの3人が先生やザネリ、灯台守などその他の様々な役を演じます。
作品製作のきっかけになった児童演劇フェスティバル『オデッセイ』の、その年のテーマが「異文化との出会い」だったので、フランス語版では現地の俳優3人に日本人の俳優を1人加え、台詞にも時おり日本語を使いましたが、日本語版には、そうした異文化的要素はありません。
また銀河を旅する様子は、私の作品でほぼ唯一、背景に映像を使って表現しました。日本語版ではこの映像を少しだけ変えています。それ以外の内容は、基本的に両バージョンとも同じです。
Q. フランスでの公演はいかがでしたか?
サルトルヴィル国立演劇センターは、フランスに40以上ある演劇センターの中でもとりわけ児童演劇に熱心で、地域の学校とも綿密に連絡を取り合っています。学校では、観劇の前に、日本や宮沢賢治などのテーマを授業で取り上げます。子どもたちは演劇鑑賞をきっかけに、日本という国について学ぶのです。こうした事前学習のため、劇場側が非常に分厚い資料を準備し、各学校に配布しています。学校授業との連動がうまいので、低学年の子どもたちも、みな、話の筋をよく理解していましたね。また授業では日本語も教わったようで、ロビーに立っていると、生徒が「オハヨー」と挨拶してくれたこともありました。
Q. 東日本大震災の後、フランスでは観客の反応は変わりましたか?
私は1月の初演の後いったん帰国したので、観客の反応の変化を実感できませんでしたし、また公演ごとに観客層も違いますから、一概には答えられません。とはいえ震災を境に、事前学習で教える内容がガラッと変わってしまったので、やはり観客の様子も少し違うと、俳優たちは感じたようです。
Q. 東北公演について、詳しくきかせてください。
東北へは、今年の8月に被災3県に公演に行きました。岩手県の久慈と盛岡、宮城県の仙台、それから福島です。震災があってから、青年団の公演としてはこの『銀河鉄道の夜』が東北での初めての公演でした。公演にあたっては、震災前から公演やワークショップなどで交流のあった劇場にお願いし、復興支援事業として、のべ14ステージ上演しました。津波の被害を直接受けていない地域でも、避難して来られた方が多くいらっしゃったので、仮設住宅で暮らす子どもたちを中心に招待し、無料公演を行いました。内容が内容だけに、この演目をすることに迷いもあったのですが、事前に公演を見てくださった現地の演劇人の後押しもあり、実現しました。
観客の中には、当然かなり泣いている人もいました。ただ、子どもたちだけでなく親御さんやおじいさん、おばあさんも来てくださり、「この時期にこういう作品を見られてよかった」という声も多くいただいたので、行って良かったかなと思います。
(2012年11月06日 大阪市内にて)
【AI・HALL自主企画】
舞台芸術による「ことば文化」推進事業
青年団
『銀河鉄道の夜』
11/30(金) 14:00/19:30
12/01(土) 11:00/14:30
12/02(日) 11:00
一般2,000円 子ども(中学生以下)1,000円 セット券(大人+子ども)2,500円 |