■意志を継いだキャスティング
はたもと:
チラシにも書かせていただいたんですが、深津は関西で芝居を続けることにすごく使命感を持っていました。劇団がある程度の規模になると、東京に拠点を移すとか、解散して主要メンバーが上京することがよくあると思うんですけれども、彼は関西という地域や劇団という集団をとても大事にする演劇人でしたので、そういったことは一切口にしませんでした。新国立劇場などで大きな仕事をして帰ってくるたびに関西の現状を大変憂いて、もっと関西にも仕事があれば、辞めずに済む役者もスタッフもいっぱいいるだろうし、他の仕事を掛け持ちしなくても、演劇を続けていく力や夢を持てるのではないかと、いつも言っていました。
今回の公演では、著名な演出家や俳優を招くという案も出たのですが、果たして、そのやり方で深津の世界を本当に表現出来るのかという思いがあり、やはり彼が信頼していた仲間、小劇場で頑張っている人たちと一緒につくることを大事にしようと考え、この座組になりました。初めて桃園会に客演していただく方も、常連の方も混じり合う、とてもいいチームでこの作品をつくっていますので、期待してご覧いただきたいと思います。
■師弟関係から教わったこと
空ノ驛舎:
私は17年前にアイホールの戯曲塾「伊丹想流私塾」に入塾したのですが、深津さんはその塾で師範を務められていて、そこで初めて知り合いました。当時、『うちやまつり』で第42回岸田國士戯曲賞を受賞された直後でした。塾は2週間に1回講義があったんですけど、講義が終わるたびに朝まで飲んでいました(笑)。私は深津さんから劇作を教わりましたが、それ以外にも、日頃どんなものに興味があるかとか、何にアンテナを張っているのかとか、どんなことを考えているのかなど、一緒に飲みに行き様々な話をする中で、「劇作家の身体」、「演劇人の在り方」というものを学ばせてもらった気がします。
ご病気になられてからは、演出補佐や演出助手という形で深津作品や桃園会さんに関わっていましたが、このお話をいただいたときには、感無量と言いますか、有り難いことだなと思いました。
清水友陽(以下、清水):
私は2006年に北海道文化財団が主催した「アートゼミ」プログラムの「演出家のための講座」で講師として来ていた深津さんと初めてお会いしました。その翌年に、札幌に滞在して『カノン、カノン』という作品を創られた際には、演出助手を担当しました。空ノ驛舎さんと一緒なんですけれども、約1カ月半くらい毎晩のように朝までお酒を飲んで(笑)、お話をさせていただきました。演劇や劇作のことについて、「こうするんだよ」というようなことは全く教えていただけなかったのですが、今、どういう本を読んでいるとか、どういう作品に興味を持っているとか、そんな話が多かったです。その中でいちばん、話されていたのが、自らの劇団である桃園会のことです。
実は私は、深津さんと出会った年に自分の劇団を解散していたんです。劇団というものに対して、札幌の地でやっていくには限界があるんじゃないかと感じて、当時、札幌でも流行っていたプロデュース公演の体制にシフトしようかなと思っていた時でした。でも深津さんが、札幌の戯曲ゼミで「役者を集めてこい、『動員挿話』をやるから」と仰って…。私は役者の知り合いのほとんどが元の劇団員だったので、もう一回、彼らに声をかけたんです。深津さんは「劇団でモノを作る力」の強さを訴えていた気がするんです。ずっと同じメンバーで、長い時間を掛けて蓄えた方法論が、とても強靭な作品を生み出す。それは大都市では創りづらくて、地方都市だからこそ出来る方法なんだ、ということを教えてくれたんじゃないか。私はそういう気がして、それをきっかけに翌年、同じメンバーを集めてもう一度劇団を作ることにしました。今、自分の劇団があるのは深津さんのおかげだと、とても感じています。
■憧れの劇団、桃園会
清水:
深津さんがいつも桃園会のお話ばかりされるので、すごく憧れを持っていました。何年か後に初めて桃園会作品を観劇したとき、「あ、ここに深津さんの頭の中があるんだ」と気が付きました。劇場で起こっていることなのに、いろんなところに連れて行ってもらえる…そんな体験に、ものすごく衝撃を受けました。また、桃園会は深津さんの言葉をしっかりと体現している。それを目撃したことによって、深津さんの書く台詞の魅力を再認識しました。その後も何度か大阪に来て、桃園会の芝居を観て勉強させていただいたり、深津さんとお話させていただく間に、教えていただいたことを消化して、その方法を使って自分の劇団をどう回していくか、という実験もできました。
今回、憧れの「桃園会」という場所で、深津さんの作品を演出できる機会をいただいて、是非、一員として創作現場で作品と向き合いたいという気持ちで参加させていただいております。
■『うちやまつり』の演出指針
空ノ驛舎:
『うちやまつり』は岸田國士戯曲賞受賞作品であり、読んで面白い。“面白い”のが当然な作品の演出をすることに、プレッシャーはあります。
私はいつも他の方の作品を演出するときは、劇世界を忠実に丁寧に立ち上げようと心がけています。ですが今回は、「丁寧に立ち上げる」ということを大切にしながらも、劇作家が意図しなかったであろう演出――私の誤読なり、(戯曲を)読んで感じる印象と違う、相反する演出――をすることで、劇世界が豊かになるのではないかと思って、取り組んでいます。つまり、『うちやまつり』をエンターテインメント作品にしたいんです。ドラマチックにつくろうと思っています。何気ない会話の積み重ねの劇なんですけれども、そのときの会話が、どのようなベクトルで、どのような意図を持って、どう発せられていくのか、明確に立ち上げようとしています。それによって、桃園会において過去3回上演されている『うちやまつり』とは全く違う形で作品が立ち上がってくるはずです。そうでなければ深津さんに喜んでもらえないでしょうから。『うちやまつり』という戯曲は、私がいくら誤読をして作者と違う意図で作ったとしても、揺るがない劇世界があります。作品が本来持っている、人間の暗部が立ち上がるような劇構造を大事に残しながら、観終わった後、お客様が上質なミステリー小説を読み終えた時のような気持ちになればいいかなと思っております。
■難作『paradise lost,lost』へのアプローチ
清水:
『paradise lost,lost』は、最初に読ませていただいたときは、「ちょっとわかんない」って思いました(笑)。このわからないものをわからないままやってみたら、何か見えてくるかなという気がしたんですけれども、未だにわからないです(苦笑)。
物語の舞台は『うちやまつり』の6年後の世界です。団地が取り壊された跡地が、広大な空き地になっていて、そこにあるドライブインでの物語です。そこにいる人たちは本当の話をしているのか、嘘の話をしているのか、生きているのか、死んでいるのか、それすらわからない…そんな物語なので、どういう風に作品として立ち上げるか、試行錯誤しています。深津さんが書かれた台詞のひとつひとつを手掛かりにするしかないんだろうなと思っています。
また、『paradise lost,lost』はひとつの物語というよりも、身体を使って立ち上げていくコンテンポラリーダンスみたいな作品なんじゃないかという印象を持ちました。なので、「言葉を使って身体をどのように動かしていくのか」ということに重きをおき、その積み重ねによって最初から最後まで全体が繋がったときに、ひとつの強靭な作品が立ち上がるんじゃないかなと思っています。ただ、私も観念的な小難しいものにはしたくないので(笑)、笑えるような話ではないんですけれども、微笑ましい作品になればいいかなと思っています。桃園会の皆さん、客演されている皆さんと微笑ましく、肩の力を抜いて臨める現場をつくっていきたいです。
『paradise lost,lost』はこれからグイグイと詰めて稽古したいと思っています。これからどのように変わっていくのか、私も楽しみにしているところです。
■質疑応答
○深津演出とはまた違う演出になりそうですが、劇団員としてはどんな気持ちで稽古に臨まれていますか?
はたもと:
近年、深津が稽古場に長くいることが難しくなっていたこともあり、演出助手の空ノ驛舎さんにみっちり稽古をしていただいていたので、『うちやまつり』のほうは、いつも通りという感じで入っていきました。
清水さんの演出は完全に初めてなんですが、お付き合いが長いのもありまして、違和感なく稽古している感じではあります。
ただ、二人とも演出方法は全く違いますので、難しい部分もあります。例えば、深津は割と口出しせずにさーっとひと通り役者にやらせて、ポイントだけを指摘する演出スタイルなんですけど、空ノ驛舎さんは細かくシーンを繰り返すというやり方なので、作品へのアプローチは全然違ってきますね。
○現在、桃園会は演出家不在の劇団ですが、今後もこういう形で続けますか?
はたもと:
今後の継続に関しては決定していません。とりあえずこの公演をやるということだけを目標にしております。終わった後、続けていくのか、または解散するのかも含めて今後の活動は未定です。
○何故この2作品を同時に上演することを選んだのでしょうか?
はたもと:
深津自身がこの2作品をセットで東京に持って行きたいという意向があって、自分の代表作を改めて見せたかったんだと思います。深津は公演が終わったらあまり振り返らないタイプだったのですが、「読み直してみたら『paradise lost,lost』はなかなかいいよなあ」とも言っていました。また、再演するときは戯曲の手直しをすることがよくあったんですけれども、この作品に関してはそのままいける感触があったみたいです。
2作品同時上演に関しては、今までも同様の企画を何度も行っています。精華小劇場の杮落しの際も、『うちやまつり』と『熱帯夜』の同時上演でした。『paradise lost,lost』の初演でも、『断象・うちやまつり』として、ヤザキタケシさんのダンスと『うちやまつり』を短く編集したリーディングのコラボレーション作品を同時上演しました。深津自身が「企画」にすごく熱心なところがありまして、劇団の公演をただ行うのではなくて、お客様にどう観てもらうか、どう作品を知らしめるかということも、すごく気にしていました。作品を書く、演出することは勿論ですけど、劇団として今、何をするかということにも注力していました。
○『うちやまつり』は何度も上演をされていますが、その都度、何かきっかけになるような上演のタイミングがありましたか。
はたもと:
『うちやまつり』は深津の中で完成されていたので、何かの折には『うちやまつり』で勝負するというところがありましたね。思い入れが強かったんだと思います。
○俳優さんは上演されるたびにどんな気持ちで臨まれていましたか?
はたもと:
『うちやまつり』は、一人の人間を軸にして、主人公を巡る人たち、庭に行き来する住人たちを描いているので、二人芝居、三人芝居の連続みたいな構成になってるんですね。役によって全く見え方が違うので、俳優としてはそれが醍醐味でもありますし、やりがいのある演目です。再演するたび、みんな毎回同じ役をするわけではないので、この世界ではこんなことが起きていると、改めて違う角度で見えてきますね。
○『うちやまつり』は18年前の作品ですが、当時の時代性をどう表現するか、また今、上演する意義をどう考えていますか。
空ノ驛舎:
戯曲の設定が2000年ですので、時代性については2015年の現在に焼き直すのではなく、戯曲の設定する時代、つまり、近過去という考え方で演出したいと思います。
この作品は、「人間の抱える暗部」が表現されていると評されるときもありますが、人と人とが出会って巻き起こる、絡み合う関係性を描いてるところに、普遍性があると感じています。いつの時代も、「人は人とつながりたい」ということは変わらないと思います。その普遍性を強調して、現代社会を生きる皆さんに提示したいと思っています。
【提携公演】 桃園会 『うちやまつり』☆ 作:深津篤史 演出:空ノ驛舎 『paradise lost,lost』★ 作:深津篤史 演出:清水友陽
2015年年2月18日(水)19:30☆ 19日(木)19:30★ 20日(金)19:30☆ 21日(土)14:00☆ 19:00★ 22日(日)14:00★ 公演の詳細は、こちらをご覧下さい。 → こちら |