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深井順子(FUKAIPRODUCE羽衣)インタビュー

 

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アイホール共催公演として、FUKAIPRODUCE羽衣『イトイーランド』を4月28日・29日に上演します。伊丹には、2014年の『耳のトンネル』以来約2年ぶりの登場です。新作の伊丹公演に先駆け、主宰で俳優の深井順子さんにお話を伺いました。


深井順子■様々な愛のかたちを描く
 劇団としては約1年ぶりの新作です。7人のイトイー夫人が夫の不在に愛人たちを自慢する「イトイーランド」を中心に、人間だけでなく、ヤモリとトカゲ、月と地球、深海魚同士など、人間以外のカップルも登場し、様々なシーンが展開します。FUKAIPRODUCE羽衣(以下、「羽衣」)では、人間以外を描くことが珍しくなくて、カエルや鳩だけが登場する作品もあるんですが、作・演出の糸井幸之介くんにとっては、自分のやりたいことを表現するには人間以外を交えて描くほうが合っているみたい。そのなかでも今回は、終末観が色濃いし、地球上が人間だけのものじゃないという設定は今まで以上に顕著です。人間や動物や草木が入り混じり、様々な愛のかたちが展開する作品として、みなさんに「面白かった」と言っていただけるものにしたいと思います。 
 糸井くんの作品は、いつも「死」と隣り合わせで、「生きる」と「死ぬ」の間を揺れている感じがします。例えば、『耳のトンネル』では、主人公は人生の途中で崖からすべり落ちてしまうし、『観光裸』の幕切れにもささやかな行為の向こうに色濃く死を感じさせる描写がある。今回も「セックススペシャリスト」というシーンで、「死生観」がすごく切実に描かれています。「うわっ」となる観客もいるかもしれないけど、私はすごく惹かれているシーンで、糸井作品の特徴や世界観が良く出ているところだとも思います。

 

■「レビュー」を見るように楽しんで
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 羽衣の「妙ージカル」のスタイルって、宝塚歌劇団の「レビュー」に似ていると思うんです。つまり、ひとつの決まったテーマやコンセプトをもとに、色んな曲調の楽曲を歌って踊るスタイル。今回も作品中で7~8曲歌います。同じ曲調が続かないよう、飽きさせないように、バラードやラップ調やサンバなど様々なジャンルで構成されています。1曲のなかに1つのドラマが入っているという羽衣特有の曲もあれば、“耳心地”のいい、聴いて楽しめる曲もあります。特に今回は、『耳のトンネル』よりはストーリー性は薄く感じられるかもしれませんが、バラエティに富んだシーンの連続でより「レビュー」を観ている感覚で楽しんでいただけると思います。
 特に注目してほしいのは、男性だけのバラード。いつもは男女混声ばかりだったので、初めての試みです。すごくきれいだし、心地いい。テーマ曲ともいえる表題曲「イトイーランド」も、過去作品のテーマ曲とちょっと異なるアプローチをしているので、注目して聴いてほしいです。

 

■“耳コピー”で再現される音楽
 糸井くんがつくる楽曲は楽譜で届くわけじゃないんです。彼が稽古場にギターを持ってきて、「こんな感じ」と歌ってくれるので、録音して、それを聞いて練習します。初参加の扉座の岡森諦さんが「こんなふうに覚えられるなんて、君たちは天才だ!」って(笑)。今回は珍しく、最初の何曲かは、「見本」として、糸井くんが歌ったデモ曲を持ってきてくれたので、それを必死で覚えて、歌ってみせて、直されてのやりとりを繰り返しています。歌いながら曲を整えている感じです。
 実は、羽衣には譜面を読める人がほとんどいない。だから私たち、完全に“耳コピー”。それに、糸井くんがつくる音って本当に微妙で、彼しか持っていないような音なんです。ギターで曲づくりをしているからかもしれないけど、ピアノで音をとるより、結局、“耳コピー”したほうが正確だし早いねってなりました。

 

fukai-4■セリフと歌のこだわり
 セリフは、一言一句そのままで発するというのが羽衣での厳しいお約束です。間違ったら「て、に、を、は」まで指摘されます。戯曲の言葉をそのまま喋れば成り立つからでしょうね。だから、変な言葉を入れる必要もないし、変な抑揚を入れて演じると反対に気持ち悪くなっちゃう。あと、糸井くんは演出するとき、「響き」をすごく気にしている。声の高さやスピードも細かく気にします。
 歌い方も、糸井くんは抑揚をつけた歌い方を好まない。役者がうまく歌おうとすると、「“上手(うま)げ”に歌うのではなく、大きい声でまっすぐに歌ってください」と言っています。そういうところが、羽衣らしい美しさをつくっていると思います。

 

■俳優の魅力

 客演は私の好みのタイプで選びました(笑)。伊藤昌子さん、幸田尚子さん、高山のえみさんは、今まで羽衣に出演経験があって、羽衣でしか出せない魅力や輝きを持っているお三方だと思っています。美しさを持っていて、その美しさの奥に恐ろしさを兼ね備えている、そんな魅力のある方々です。女優陣が7人のイトイー夫人役として束になっているシーンは、いい意味でくだらなくて面白いので注目してください。
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 男優陣の岡森諦さんと大鶴佐助さんは二人とも初参加。岡森さんは、扉座を見て「かっこいい」と思ったのがきっかけで、強面なのにすごくキュートで、声も素敵な方です。年齢を重ねている人に出ていただきたいと考えていたので、とても嬉しいです。佐助くんも、どんどん羽衣色に染まってきてくれていて、いい意味でヘンテコリンに、小さくまとまらずに演じてくれています。
 みなさん、ひたむきで、舞台上での思い切りがよくて、歌ったり、踊ったりしても顔が死なない人たちです(笑)。役者の顔が死んじゃうと、舞台そのものも途端に輝かなくなっちゃう。でも、歌ったり踊ったりしながら、顔を輝かせるのってすごく難しい。ある出演者が、「羽衣の舞台は、その人自身の魅力が問われるからこわい」と言っていたけど、確かにまるごとの自分が舞台に出ちゃう。(俳優の)見た目が美しいとかお芝居が上手いだけでは羽衣の世界を成立させられなくて、その人自身が素敵じゃないといけないんですよね。
 糸井くんも、負荷がかかった役者の身体をみせようとすることが多いです。そういうところも含めて、生の舞台で羽衣を観てほしいです。

 

■自分たちの作品をつくる歓び
 2015年は、私がNODA・MAPへの出演や一人芝居のツアー、糸井くんが木ノ下歌舞伎『心中天の網島』の演出や、アンデルセン童話を原作にした子ども向けの作品製作(@あうるすぽっと)と、外部での活動が盛んでした。今回、久々にFUKAIPRODUCE羽衣としての本公演。何より劇団員のみんなが楽しそうです。この1年間、外部でいろいろ経験をさせてもらえたことで、自分たちで自分たちの作品を創ること、劇団でやることに対し、今まで以上に大きい歓びを感じています。
今回のタイトルを『イトイーランド』としたのも、糸井くんの「自分の名前を冠して、(作品に)責任をとるんだ」という覚悟の現れでもあります。是非、見ていただきたいと思います。

(平成28年3月下旬 大阪市内)


【共催公演】

FUKAIPRODUCE羽衣

『イトイーランド』

プロデュース/深井順子

作・演出・音楽/糸井幸之介

 

平成28年

4月28日(木)18:30

4月29日(金・祝)14:00

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