平成30年度
現代演劇レトロスペクティヴ
「現代演劇レトロスペクティヴ」は、1960年代以降に発表された、時代を画した現代演劇作品を、関西を中心に活躍する演劇人によって上演し、再検証する企画です。現代演劇の歴史を俯瞰し、時代に左右されない普遍性を見出すとともに、これからの新たな演劇表現の可能性を探ります。
ディレクターズ・ノート
現代演劇レトロスペクティヴは、アイホールの年間事業の一つの柱である。ここ2年は生田萬さん、内藤裕敬さんに若手中心の座組を作っていただき、所謂セルフカバー的に自身の作品のリメイクに挑戦していただいた。その間にも、関西演劇界に於て若手の進境は著しい。平成最後の年となる30年度は、共に1980年代生まれの二人の演出家に登場していただくことになった。そのことによって、選出される戯曲も1990年代半ばまでを射程に入れてよいだろうとの方針が選択された。コトリ会議の山本正典さんは鈴江俊郎さんの戯曲に挑戦する。現代口語演劇が席巻する90年代にあって、鈴江さんの台詞は変易でありながら、独特の詩情を湛える。若かりし日に、鈴江さんの薫陶を受けた山本さんであるから、まず間違ったテキストの読みはないだろう。
baghdad caféの泉寛介さんは、80年代演劇の金字塔『野獣降臨』を選んだ。この時代、野田秀樹さんの登場は鮮烈であった。それまでの小劇場演劇から情念を追放し、混沌の宇宙から神話を再構築する試みは斬新であった。現代の俳優たちの身体と、この戯曲がどのように呼応するのか期待される。まったくスタイルの違う2作品が並ぶ本年度の現代演劇レトロスペクティヴ。現代演劇の変遷に思いを馳せながらお楽しみいただきたい。
アイホールディレクター 岩崎正裕
山本正典(コトリ会議)×泉寛介(baghdad cafe)×岩崎正裕
トークライブレポート こちら
●平成30年度ラインナップ●
コトリ会議
『髪をかきあげる』『ともだちが来た』
作:鈴江俊郎 演出:山本正典
硬軟自在な繊細な台詞とラストに昇華する巧みな構成力で、内向しがちな現代人の生きざまを、ユーモアとペーソスを織り交ぜて紡ぐ会話劇。90年代半ば、日本の現代演劇に新たな潮流を生み出した鈴江俊郎の代表作、連続上演。
2018年
11月
15日(木)19:30『髪をかきあげる』
16日(金)15:30『髪をかきあげる』
19:30『ともだちが来た』★
17日(土)11:30『髪をかきあげる』
15:30『髪をかきあげる』
19:30『ともだちが来た』
18日(日)11:30『ともだちが来た』
15:30『髪をかきあげる』
★…終演後、シアタートークあり。詳しくはこちら
ゲスト…鈴江俊郎
◆チケット発売中!公演詳細はこちら
演出より
鈴江さんに「岩が落ちてくるから」と言われた。
僕は役者で立っていて、稽古場。舞台は工場の宿舎の一角。
思わず「屋内ですが」と尋ねた。
鈴江さんは血管の浮き出た大きな目で「落ちてくるから。受け止めるだろお前は。死にものぐるいで」
僕は台詞を叫びながら汗だくで無数の岩を受け止めた。
大きいの小さいのなんてイメージする暇はない。鈴江さんが「もっともっともっともっともっともっと…」って。
気づけば僕は、落石から生き延びていた。
鈴江さんは「それや」と一言。
それ、とは。
僕は、でも、衝撃だった。
あれから何年経ったか。気づけば僕は役者さんに「落石があるので」と演出している。
役者さんは「屋内ですけど」って言ってくる。
僕は笑って「ねえ、屋根ありますもんね」と返す。
はやく鈴江さんになりたい。
山本正典(コトリ会議)
コトリ会議(ことりかいぎ)
2007年結成。ほぼ全作品を山本正典が手がける。ふつうの人々の生活を、軽妙な会話で丁寧に描くことを得意とする。素朴さを装いながらも、人の心に巣食う“嫌らしさ”を、寓話的な表現を織り交ぜて立ち上げていく。シアトリカル應典院舞台芸術祭「space×drama2010」にて優秀劇団受賞。 2014年に芸創セレクション(大阪市立芸術創造館)、「次世代応援企画break a leg」(AI・HALL)に選出。2017年には劇団初の単独ツアーを5都市で敢行。
baghdad café
『野獣降臨』
作:野田秀樹 演出:泉寛介
冗舌な言葉遊びと複数の物語が交錯する重層的なストーリー、リリシズムとイメージの連鎖で立ち上がる“失われた一本のあばら骨”に隠された記憶…。エディンバラ国際芸術祭にも招聘された、野田秀樹の初期代表作のひとつ。
2018年
12月
22日(土) 18:30★
23日(日) 13:00/17:00
24日(月・祝)11:00/15:00
★…終演後、シアタートークあり。詳しくはこちら
ゲスト…高都幸男(多摩美術大学教授)
◆チケット発売/11月3日(土・祝)10:00~
公演詳細はこちら
演出より
初めて読んだときには、何の話かよくわからなかった。
ただ、言葉が気になった。言葉の輝きや流れに、異様に惹かれた。そう思いながら何度か読み続けると、少しいびつな形をしたそれらは、飛び交うように集まって、セリフになってひとつの情景をつくった。追ってセリフとセリフが噛み付くようにぶつかりあい、その情景を相当な震度で揺さぶる。景色が変わったかと思うと、新たな言葉や意味が化学式のようにつながって、一瞬でまったく違う次元に流される。時間や空間、意味や肉体、いろんなものが跳び、暴れまわって、自由でたくましいのに、野獣の声にならない咆哮は熱く、寂しい。これは何だろう。何なんだろう、この演劇。頭ではよく理解できないけれど、こういうのやりたい、と肌で感じた。
泉寛介(baghdad café)
baghdad café(ばぐだっどかふぇ)
2003 年旗揚げ。「ノスタルジック・エンタテインメント」を標榜し、泉寛介作・演出のオリジナル作品を上演。透徹した視線で社会を描写しながらも、映像・衣裳・ダンスなどを用いた演出を駆使し、作品をポップに見せる。
近年はひとつの作風に固定せず、作品ごとに戯曲・演出手法を大胆に変化させたコンセプチュアルな創作を手掛けている。
シアタートーク
鈴江俊郎(すずえ・としろう)
1963年、大阪府出身。愛媛県在住。「上品芸術演劇団」主宰。
京都大学在学中に演劇活動を始める。93年に「劇団八時半」を結成。2007年の解散まで、ほぼ全作品の作・演出を手がけ、俳優として舞台にも立つ。また、京都の舞台芸術活性化のため「京都舞台芸術協会」の設立に参加するほか、近畿大学文芸学部助教授、桐朋学園芸術短期大学演劇専攻教授を歴任するなど後進育成にも尽力。戯曲は英・独・露・インドネシア語に翻訳され海外でも紹介されている。89年『区切られた四角い直球』で第4回テアトロ・イン・キャビン戯曲賞、95年に『零れる果実』で第2回シアターコクーン戯曲賞、『ともだちが来た』で第2回OMS戯曲賞を、96年に『髪をかきあげる』で第40回岸田國士戯曲賞を受賞。また、2003年に京都ビエンナーレ演劇公演『宇宙の旅、セミが鳴いて』(作/鈴江俊郎 、演出/高瀬久男)で文化庁芸術祭賞大賞を受賞。
高都幸男(たかつ・ゆきお)
多摩美術大学教授。1957年広島県生まれ。1976年に劇団「夢の遊眠社」を野田秀樹らと結成し、全公演で選曲・効果、および演出補として参加。86年『スプレイ』(演出)など外部公演へも多数参加。92年の劇団解散後もNODA・MAPのほぼ全作品で選曲・効果、演出補を担当。
2013年より多摩美術大学美術学部演劇舞踊デザイン学科教授。
会場・お問い合わせ
AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
〒664-0846 兵庫県伊丹市伊丹2丁目4番1号
TEL: 072-782-2000 FAX: 072-782-8880
E-Mail: info@aihall.com Twitter: @ai_hall
主催/公益財団法人いたみ文化・スポーツ財団、伊丹市
企画製作/伊丹市立演劇ホール
助成/
文化庁文化芸術振興費補助金
(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会