アイホール・アーカイブス
少年王者舘『シアンガーデン』インタビュー
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アイホールでは8月26日(土)~28日(月)に共催公演として、少年王者舘第39回本公演『シアンガーデン』を上演いたします。
今回は、劇団員の虎馬鯨(こばくじら)さんが作を、天野天街さんが演出を担う最新作です。
稽古が始まってすぐのお二人と、劇団員の宮璃アリさんに、お話を伺いました。
■ボロアパートの住人たちを描く
虎馬鯨(以下、虎馬):この作品は、2階建てボロアパートの4畳半を舞台に、アパートの住人たちが交錯していく様子を描いた作品です。中心となるのは3部屋の登場人物たち。ひとつめの部屋には還暦前後の独身男性が、二つめの部屋には道端に花の種を植える女が、三つめの部屋はガラクタを拾い集めてロボットをつくろうとしている男がそれぞれ暮らしています。その3人を中心に、総勢6~7人が登場して話が展開していきます。舞台設定はアパート内だけですが、結果的にそこから世界がどんどん広がっていくものになればと思っています。少年王者舘の公演で僕の台本が上演されるのは、『シフォン』(2007年)、『ライトフレア』(2009年)に続き、約8年ぶりです。実は僕、1993年に少年王者舘に入団したあと、並行して自分で劇団をやっていた時期があって、そこで台本を書いていたんです。2013年には劇団の番外イベントでも書かせてもらいました。今回の公演は、劇団の総会で、僕が今作の構想を提案したところ、それが通って、上演の運びとなりました。
宮璃アリ(以下、宮璃):総会では、いつもは天野さんが次の作品の構想をみんなに話すんですけど、今回、コバケイ(虎馬鯨の愛称)さんが、「書きたいものがある」と言ったところ、みんなが「書け! 書け!」と喰いついたんです。
天野天街(以下、天野):そのわりには、出演する人、少ないよね(笑)。
宮璃:それとこれとは別です(笑)、みんな都合があるので。天野さんも6つぐらいの候補を考えていましたよね。
天野:まあでも今回はコバケイが提案したから、僕も候補を出さなきゃと思ったところが大きいんだけどね(笑)。実は、総会で提案する時点では、作品の構想まで練り切れてなくて作品名だけがあることが多い。次、このタイトルでやりたいっていうのがあるだけ。でも、コバケイは、総会の時点で構想もあったよね。
虎馬:実は以前から、いつか芝居のかたちにしてみたいという「何か」は持っていて、ずっとモヤモヤしていたんです。そのころ、職場でプリンターのカートリッジを替えるとき、青色のことをシアンと呼ぶことを知って、面白いなと思って。それで、その「何か」のタイトルを『シアンガーデン』にしようと決めました。僕も内容を決めずに先にタイトルを決めちゃうたちなので、タイトルが芝居の内容を表したものにはなっていないです。あくまできっかけです。あと、漠然と“アパートもの”を書きたいという思いも持っていて、その2案を絡ませて総会でみなさんに提案しました。個人的には、ひとりの人間が一室に閉じこもりながら想像をめぐらす、ものすごく広い世界を描きたいと思っています。
■「一粒の水」のイメージを取り入れて
虎馬:企画書の「作者より」という箇所には、「雨漏り」「一粒の水」といったイメージの言葉を書きましたが、これはあくまで作品をつくるきっかけのひとつで、それが全てではないです。この「一粒の水」のイメージは、You Tubeにあった3.11東日本大震災のアーカイブ映像を見返していたときに浮かびました。震災の映像は、当時はほとんど見ていなかったのに、何年も経ってからなぜか気になってしまって何とはなしに見ていたんです。そのなかに、町に波が押し寄せくる様子をスマートフォンで撮影した映像がありました。みんなが「危ない。逃げろっ」と逃げ惑っているなか、遠くのほうで年配のおじいさんがトボトボと歩いている様子が映っている。そのあとすぐ、そのおじいさんの後方から波がドバーッて押し寄せてきて…。撮影している人も逃げなきゃいけないですから、結局、おじいさんがどうなったかがわからないままになってしまい…。少し経ってから、カメラがもとの場所を映したときには、そこはもう水で覆われていました。その映像をみたときに、海とか、波とか、町一面の水とか、それってなんだか一つだと感じたんです。遠くから見ると、一粒の水の塊のように見えると思ったんです。そのイメージを、この作品に取り込もうと思いました。ただ、舞台として表現するときは、海や水の話を会話としてするだけで、実際に具体的な「水」を出すつもりはありません。
■少年王者舘が挑戦する会話劇
天野:「虎馬鯨が書く」、それだけで、今までの少年王者舘と全然違うものになると思っています。コバケイが、以前に書いた台本は、長いセリフが多かったんです。セリフでイメージを説明していく感じです。「言葉の力」、それも「まとまった言葉の力」を信頼して書いていたと思うんですけどね。今回、台本を書くにあたり、僕から「セリフは二行以上禁止」とオーダーしました。まあ、その禁止はすでに破られているけど(笑)。ただ、短い台詞のやり取りで構成されている台本にはなっています。
虎馬:今回、今まで劇団に書いてきた作品と書き方を意識的に変えて、会話劇に挑戦しています。実は、2013年の番外イベントで『同級生~咲く汽笛』を書いたとき、初めて、自分の思っていることをその通りに書くことができたと感じたんです。それまでは、自分が思っているようになかなか書けないというジレンマがありました。『同級生』は、机とイスだけでセットも建てず、4人の出演者がただ会話しているという作品ですが、そのとき会話劇という手法が僕にあっていると感じました。それで今回の劇団本公演でも、会話劇の手法を使って書くことにしました。
天野:実は、『シフォン』も『ライトフレア』も、最終的に、僕が構造も含め上演台本として書き直しちゃったという経緯があるんです。でも今回はなるだけしないつもりです。もし、「少年王者舘っぽい」というものがあるとしたら、今回は少年王者舘っぽくない、それを裏切っていく作品になると思っています。あと、作品中に“不可能事”―例えば、人がポッと消える―とかがあるとしたら、今までだと、ザザッーと音楽がなって、前と後ろのシーンが繋がって…みたいに大げさな演出をつけていたけど、今回は、ふっと消えて、ふっと出るみたいに、「すんなり、スマート」に見せていこうと考えています。不思議なことや、手品のようなことも織り込む予定ですが、そういった変なことが次から次へと、“何気なく”起こっていく、そんな舞台にしたいと画策しています。
■演出プランと舞台美術
天野:演出プランについては、まだ語れるほどの情報はないんですよね。稽古も数日前に始まったばかりで。実は台本も完成していない。まあ、そもそもラストなんて書きながら決まっていくと僕は思うからね(笑)。でも、ラストが無い状態で、美術の構造は先につくらないと間に合わない。だから、いま手元にある情報で舞台美術の田岡さんとアイディアを出し合って、舞台美術は、構造的にはシンプルだけど、ちょっとだけ不思議なことがちゃんと起こせるように用意だけはしておこうと、プランを練っています。
いま構想中なのは、3つの部屋が登場するんだけど、その3つの部屋が重なってひとつになっているような見え方ができないかということです。視点が次々と変わっていく様子をどう構造的に視覚的に見せるか…。例えば、それぞれの部屋をつくって、スライドできる造りにして、出てきたり引っ込んだりすることもできるだろうけど、それはやめようと思っています。台本には、押入れが出てきたり、隣の部屋との関係性も書かれているんだけど、僕は、実際の舞台上に出てくるのは「ひとつの部屋だけ」にしたいと思っています。一部屋の美術で、その部屋ともう一つの部屋と隣の部屋という、異なる3つの部屋を表現したいなと。あと、部屋の出入口もひとつのみにしている。だから、いつもの王者舘だったら、踊りのときには舞台袖や扉などいろんなところから人が出入りするんだけど、今回はそういったことも“不可能事”になってくるんですよね。舞台美術は、もう本当にすっごい単純な壁のみ。客席側に見えない壁があるとして、舞台上には3枚の壁に囲まれた、味も素っ気もないガランとした部屋があるのみ(笑)。そのうえ、出入口もひとつしか作らない。完全に閉じられた空間にしたいと考えています。きっと、すごく閉塞感のある舞台美術になると思います。
■いつもと違う“質感”で
―少年王者舘の特徴でもあるシーンの繰り返しはありますか?
天野:それはもう、作者の頭の中ですね。
虎馬:僕にとって、最初と最後がくっついているとか、繰り返すっていうのは、当たり前で普通のことという感覚があります。だから結局、今回も“巡る”ものになる気はしています。それが、天野さんの影響かどうかは自分ではわからないですが(笑)。ただ、僕には天野さんみたいな台本は書けない。だからこそ、僕が書けることを書きたいと思っています。
天野:執筆はどこまで進んだ?
虎馬:半分を過ぎて後半に入っています。今は「ブラック」の途中。あと「シアン」のシーンで終わらせたいんですよね。
天野:今回、「イエロー」「マゼンダ」「ブラック」「シアン」など、各シーンを色名で表しているんだよね。上演時間はどのくらいを目指している?
虎馬:『同級生』の感覚だと1枚1分だから、今で60分かな。全体で1時間20分ぐらいにはしたいです。
天野:それなら、コバケイの感覚で2時間ぐらいのもの書いたら、そのぐらいの時間になるかもしれないね。
虎馬:なるほど。
天野:『シフォン』や『ライトフレア』は僕が構成し直したといいましたけど、そのときはコバケイが思った以上に台本を早い時期に完成させてくれていたので、僕も最後まで読んで構成していたんだよね。まあ、僕が書き直すわけだから、結局、上演台本の完成が初日直前になっちゃって、地獄絵図のような役者のバタバタは、変わらなかったんだけど(笑)。
虎馬:僕、『シフォン』も『ライトフレア』も出演していたんですよ(笑)。そう考えると、執筆だけで参加というのは、今回が初めてです。
天野:でも、まだ書きあがってない(笑)。いや、いいよいいよ、まだ時間はある。
宮璃:コバケイさんの作品を上演すると、そのあと、少年王者舘の流れが少し変わる気がしています。『シフォン』のときは、天野さんの当て書きとはまた違う雰囲気の役をする機会になったし。今回も会話が主体の作風ですしね。これを機会に、劇団が次へと展開していくきっかけになるのでは、と思っています。なにかが融合して新しくなっていく感じです。
天野:登場人物6人というのは本公演初の少なさだけど、少人数でいつもと違うことをやってみると、一体何が見えてくるか、楽しみだよね。歌もダンスもあるけど今回の公演は、少年王者舘としては、いいも悪いも含めて初めての試みをいっぱいすることになると思っています。“質感”も含めて、いつもと全然違うことになりそうです。今まで観ていただいているお客様はもちろん、初めて御覧になる方にも、是非、観ていただければ嬉しいです。
2017年7月上旬 名古屋市内にて
平成29年
8月26日(土) 14:00/19:30
8月27日(日) 14:00/19:30
8月28日(月) 14:00