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青年団『さよならだけが人生か』
平田オリザインタビュー

39AI・HALL共催公演として、青年団が2018年1月26日(金)~29日(月)に『さよならだけが人生か』の上演を行います。作・演出の平田オリザさんに、作品についてお話を伺いました。


 

平田オリザ

■『さよならだけが人生か』について
この作品は、私にとっては非常に思い出深い作品です。青年団というのは、今はそういうふうには認知されてないんですけど、私たちの同世代のなかでは…横内さんとか坂手さんとかに比べると、最も遅くメジャーになった劇団でした。1989年に『ソウル市民』を初演して、その頃から演劇界では話題にはなっていたんですけども、当時まだインターネットがない時代ですし、こまばアゴラ劇場という小さな自分の劇場でずっと上演をしていたものですから、なかなかお客さんは増えず…。『ソウル市民』の初演がたぶん600人くらいの動員で、そのあとも2~3年は600人か700人の動員でした。当時は東京でも劇場の数が少なくて、タイニイアリスにいって、スズナリにいって、紀伊國屋ホールにいく、みたいなハッキリとした小劇場の出世コースがあったんですけども、うちはそういうのに馴染まないだろうと思って、ずっとこまばアゴラ劇場で上演をしていたんです。で、当時、渋谷にシードホールという、阿部和重くんが小屋番をしていたという伝説の映画館であり劇場があったんですけど、そこで満を持して初めての外部公演としてこの作品を上演して、爆発的に動員が増えました。そのあとこの作品でタイニイアリスフェスティバルにも参加したので、両方合わせると2000人以上の動員になって、演劇雑誌にも劇評が出るようになって、今に至るとば口を開いた作品になりました。

『さよならだけが人生か』2017年東京公演 撮影:青木司

ただ、私のお芝居はいつもあらすじの説明が難しいんですけど、特にこの作品は最も筋らしい筋のない作品です。まあ、そういう意味では最も私らしい作品とも言えるんですけども(笑)。工事現場でずっと雨が降り続いていて、さらにそこで遺跡が発掘されてしまったために、その調査もせざるを得ず、だらだらと過ごさざるを得ない飯場の人々の生態が描かれています。私としては、平田オリザ版・明るい『ゴドーを待ちながら』みたいなイメージで書いた作品なんですけど、初期の作品のなかでも最も何も起こらない作品になっています。タイトルは、井伏鱒二さんの『厄除け詩集』という、中国の漢詩を訳したものがあって、そのなかに「さよならだけが人生だ」という訳詞があります。私はそれが大好きだったので、お借りして付けました。先ほど、「何も起こらない」作品と言いましたけど、ひとつだけあるとしたら、人間の様々な別離の形が描かれています。娘の結婚の話、転勤の話、留学、長距離恋愛…そういったものが描かれるのと、「遺跡」「考古学」という人間の長い歴史のなかで、そういう別れと出会いを人間は繰り返してきた、そういうものが重構造になっているつもりです。

今回は再々演になるんですが、当然、初演時と同じキャストはひとりもいませんし、演出も随分変えております。もう東京公演は終わっているんですけども、大変好評で、笑いの溢れる上演になりました。関西でもぜひたくさんのお客様にご覧いただければと思います。

 

■再演にあたって
再演の時に変えるパターンはふたつあって、ひとつは、初演のときに足りなかった部分を書き足したり、変えたい部分があったときです。もうひとつは、私は俳優に合わせて稽古場で台詞をすごく変えていくほうなので、今回はそれを随分やりました。ただしこの作品にはもうひとつ変えたところがあって、それは、毎日新聞さんのおかげで再演のときに大変な目にあったからなんです(笑)。別に毎日新聞が悪いわけじゃないんですが(笑)、2000年の「旧石器捏造事件」のスクープのことです。ちょうど私たちは2000年に初の『東京ノート』アメリカツアーがあって、その直後にこの作品の再演が決まっていたので、アメリカに行く前にほぼ通し稽古まで終わっていたんですね。それからアメリカツアーに出たら、その最中に毎日新聞のスクープがあったんです。今みたいにインターネットがサッと見られる時代ではなかったので、「日本では大変なことになってるらしい」ということになって…。で、もう、どう見ても世間では、「事件があったからこの作品をつくったんだろう」と見られてしまうような感じになってしまっていたうえに、こちらはアメリカにいるから事情がよくわからないしで、もう公演中止にするかとミーティングをしたぐらい悩みました。本当にモロな時期だったので、再演の際にはその話題に触れないのも不自然な感じだったので、ちょっと台詞を足したりしたんですが、今回はそれをまた全部なくしています。

 

■質疑応答

Q.今回、この作品を16年ぶりに再演しようと思ったのはどうしてですか?

『さよならだけが人生か』2017年東京公演 撮影:青木司

うちはレパートリー劇団だと思っていて、ローテーションでずっと再演を続けているので、そういった再演に耐える作品を常につくりたいと思っています。そういう意味では、今回この作品を再演するのは、「順番だから」としか言いようはないです。しかし唯一、もっともらしい理由をつけるとすれば、最近とみに政治の季節が続いていて、演劇界もそれに影響を受けざるを得ず、若い作家たちの作品がすごく直接的な、政治的な表現が多くて…。その気持ちはわかるんだけれども、つまらないと思っています。なので出来るだけ何もない作品をぶつけようと思って、この作品を選んだところはあります。

 

Q.「静かな演劇」と呼ばれる作品を今までずっと書き続けてきたことについては、どういうお気持ちですか?

それはよく聞かれるんですが、小津安二郎さんの言葉に、「豆腐屋にカツ丼やハンバーグを作れって言ってもそれは無理で、せいぜい作れてがんもどきだ」という名言があります。そんな感じで私もつくっているので、目新しいことをやるってことにあんまり関心がないんですね。それよりは、何の起伏もないように見せて、一時間半なり二時間、お客さんをどうすれば退屈させないかっていう技術を磨いていきたいと思っています。その技術については、ある種の自負と、まだまだやれることがあるなという気持ちと両方がありますけどね。

先週まで私はパリとドイツのケルンでオペラをつくっていたんですけども、それは短い40分くらいのもので、難民を主題にしたオペラでした。去年はハンブルグの州立歌劇場で福島を題材にしたオペラをつくりました。いずれも、何かを断罪するとかそういうことではなくて、それを素材にして作品をつくっていて、でもそれは、例えばハンブルグの場合には、州立歌劇場からはっきりと、「福島をテーマにしたオペラをつくってくれ」という委嘱だったんです。今回もフェスティバル・ドートンヌで作品をやったんですけども、ヨーロッパの劇場や大きなフェスティバルのひとつのミッションというのは、今その国の市民にとって課題であるような社会的な議題について、議論になるような作品を提供するということなのです。そして私は常にそういう作品をつくりたいと思っています。

 

Q.初演から四半世紀経って、そのなかで観客の受け止め方が変わったところはありますか?

それはありますね。最初の頃は、「後ろ向いて喋るな」とか「同時に喋るとよくわかりません」とかアンケートによく書かれていました。そういうのは今はもうないですし、見慣れて当たり前になったというか…。私たちはレパートリー劇団のつもりでいるというふうに申し上げたんですけど、それから先ほど、劇場のミッションの話もしたんですけど、劇場というのは基本的に同じ演目を何度でも見られるという、ストックの機能が実は重要で、私たちとしては、劇団あるいはアゴラ劇場の単位でもそういうものだと考えていて、そういう意味では、お客さんとの関係が落ち着いてきたという感じはあります。そしてそれを私はいいことだと思っています。特に関西公演は最近、すごくお客さんが入ってくださっていて、伊丹公演でももうすでに一般前売完売の回があるんですけれども、本当に有難いことに年一回の青年団の公演を楽しみにしてくださっているお客様がいて、必ず来てくださるというのは、非常にいい関係だなと思っています。若い方は信じられないかもしれませんが、最初に私がアイホールで公演をさせていただくときに、岩松了さんからも「関西は大変だから行かないほうがいいよ」って言われて(笑)。伝説では聞いたことがあると思うんですけど、当時、東京乾電池が近鉄小劇場で公演したときに、カーテンコールで「わからへん」と野次が飛んだという(笑)。そういう時代からやってきているので、やっぱりお客さんとの関係が成熟してきたなと感じていて、それは演劇にとって、私にとって、いいことだと思っています。

 

Q.この作品を観て、どんな議論が起こるといいと思いますか?

観たあとに謎が残るので、必ず二人以上で観に来たら、「あれは何だったんだ」と話さざるを得ない作品になっています。それを話さなかったとしたら、その人は寝ていたってことです(笑)。

 

Q.青年団の豊岡移転についてお教えください。

兵庫県知事選の公約にもなっているのでご存知の方もいらっしゃると思いますが、そもそも観光とアートを中心にした専門職大学を豊岡・但馬に作るということになっていて、早ければ来年1月に準備室が出来ると思います。その前後におそらく開学の年度が決まるので、そこに私も…これは人事のことなのでまだはっきりとは言えませんが、関わることはほぼ間違いないので、そのことが移転の理由としては一番大きいです。で、私が移る以上は劇団もそのまま移ろうということですね。劇団員たちで豊岡に移ろうという人は、思ったよりいます。当然、うちの劇団もマスコミなどで仕事をさせていただいている俳優たちもいるので、東京に残る人間もいます。そういう人たちは稽古の期間だけ来られるように、さらにレジデンス施設を作って、そこで2か月くらい滞在して稽古する形になります。鈴木忠志さんのところの利賀村のSCOTも全員が通年ずっといるわけではなくって、通年いる人もいれば、半年いる人、フェスティバル期間の三か月くらいだけいる人もいるんですね。それに似た形になるかと思います。


 

青年団 第76回公演『さよならだけが人生か』
作・演出/平田オリザ
平成30年1月26日(金)19:30
     1月27日(土)14:00/18:00
     1月28日(日)14:00
     1月29日(月)14:00
※26日(金)19:30、27日(土)14:00の回はご好評につき、前売・ご予約の取り扱いを終了しました。

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