アイホール・アーカイブス
平成29年度公共ホール演劇ネットワーク事業『とおのもののけやしき』
岩崎正裕×出演者インタビュー
アイホールでは、2017年7月22日(土)~23日(日)に平成29年度公共ホール演劇ネットワーク事業『とおのもののけやしき』を上演します。
2年ぶりの再演に先駆け、作・演出のアイホールディレクター・岩崎正裕と出演者のみなさんに、本作のみどころや公演への意気込みを聞きました。
■2年ぶりの再演
岩崎:「子どものための怪談話をつくろう」というところから、2年前にアイホールの自主製作事業として『とおのもののけやしき』を創りました。初演は伊丹のみでしたが、1ヵ所だけの上演で終わらせるのは惜しいし、せっかくアイホールで製作した作品なのだから、全国へ回したいということになり、この度、再演が実現しました。
宮川:再演できるのはやっぱりうれしいですよね。小劇場の公演は1回きりで終わることが多いので。2年越しで、また同じメンバーで、しかも7都市で上演できるというのは・・・本当に役者冥利に尽きるなと思います。
三田村:僕はこの作品で初めて子ども向けの作品をやらせていただいて、ワークショップも参加させていただいて、子どもがより好きになりました。
藤本:2年経ってもこうやってまだ子ども役をできるってなると、40代、50代になってもこの役をまたやりたいなって気持ちになりますね。
三田村:基本、僕は芝居も日常もダルい感じなんですけど(笑)、この作品では子どもの軽快さを意識してやりたいなぁと思います。
岩崎:ワークショップでもそうだったけど、子どもたちはずっと動き回っているよね。あれは新鮮だね。
宮川:“もののけ”担当としましては、前回もいろんなキャラクターを試したりしてたんですけど、今回もまたちょっとずつ「こんな感じもできるな」っていうのを試していけたらなって思っています。
■キャスティングについて
岩崎:この作品には、いくつかの“もののけ”が実体化して出てくるんですけれども、「役をいくつもとっかえひっかえできる俳優は、やっぱり宮川サキじゃないか」ということで、最初に声をかけたことを思い出しますね。
宮川:一人芝居でいろんなキャラクターを演じてきましたけど、もののけは初めてでしたね。見ていただいたらわかると思いますが、早替えが本当に大変で・・・顔の色も変えるわ、十二単(じゅうにひとえ)で舞台裏を匍匐前進するわ(笑)。舞台の仕掛けもたくさんありますから、スタッフさんも含め、全てにおいて大変な公演です。
岩崎:兄妹のキャスティングで「妹タイプの俳優は誰だ?」となった時に、アイホールスタッフ陣の強い勧めで残ったのが、藤本さんだったんです。
藤本:うれしいです! 私個人のことを話すと、講師として子どもたちと関わったり、舞台で共演したり、わりと小さい子どもたちに関わる仕事が多いので、自分が今こうして子ども役として舞台に立っていることに縁を感じています。
岩崎:逆に言うと子どもが身近にいるから、藤本さんは生態観察がよくできているということだよね。兄のキャスティングについては、この作品はそもそも怪談話というところから話が進んでいるから陽気な男には出てほしくないって思ってたんだよね。「関西一陰気な役者は誰か」ということで、三田村さんやなという話になり、出演してもらうことになったんです。
三田村:陰湿とか卑屈とかよく言われるんです・・・(笑)。
岩崎:蔵の中にふっと立っている時、寂しげなんだよね。そういうのって作って出せるものではないので、おもしろいって感じるんだな。
宮川:子どもの哀愁を背中にしょっている感じですよね(笑)。
岩崎:藤本さんが明るい妹で、三田村さんが陰のあるお兄ちゃん。このコントラストが際立ったので、上手いキャスティングができたなと思っています。
■子どもたちの反応
岩崎:初演の時に子どもたちの反応がいろいろあったと思うけど、どうだった?
三田村:正直やっている最中は必死だったんですけど、子どものリアクションを感じながら演じるのはとてもいい経験でしたね。声に出してちゃんとリアクションしてくれるっていうのは嬉しいですね。
藤本:素直です。見たまま、聞いたままを客席で返してくれる。
岩崎:客席でしゃべっているご家族が結構多かったように僕は記憶しているけど。どんなことを言ってたんだろう?
宮川:主人公たちが考えていることを先に言おうとしていた時もありましたし、ドリフターズの「志村、うしろうしろ!」という感じで「あ! あそこにいるいる!」って声がポンっと聞こえてきましたね。もののけの中では子どもたちの一番人気は鬼でしたね。ビジュアルもすごいし、稽古の時は怖がられるだろうなと思っていたけど・・・。本番入ってからの新しい発見でした。
岩崎:子どもたちは気持ち悪いものが好きだからね。
藤本:ああいうイタズラっ子なキャラクターがクラスに一人はいるんじゃないですか?
宮川:けど、登場のシーンはみんな「ひっ!」ってなってましたね。
岩崎:初演時、お芝居が終わってロビーに出てきてから、お母さんが「どう、怖かった?」と子どもに聞くと「全然怖くなかった!」と答える場面を度々見かけましたけど、そういうのがわれわれとしてはとても嬉しいんです。本気で怖がると子どもは二度と劇場には来てくれないので。怖くなかったと言いながら、内心は「ちょっと怖いところもあったな」と思っている嘘つきモードの子どもがかわいくてしょうがないわけです。再演でまた何か子どもたちの新しい反応に出会えたらなと思っていますね。
■巡演について
岩崎:今回は伊丹を皮切りに、鳥取、三重、北九州、長崎、福島、埼玉を巡演することになりますが、みんなはそれぞれの地域に行ったことはあるのかな。
宮川:私と藤本さんは二人芝居で三重と長崎に行ったことがあります。
岩崎:三重の人たちも待ち望んでいるわけだね。
藤本:もうファミリーみたいな感じです。
宮川:久しぶりなので楽しみですね。この間、一人芝居をしに初めて福岡へ行かせてもらったんですが、その時も「北九州での公演楽しみにしています」ってお客さんに言っていただいたので、また違う形で舞台を見てもらえたらと思っています。
三田村:僕も、劇団太陽族のお芝居で岩崎さんと一緒に三重と北九州に行ったことがあります。その他の地域は初めての場所ばかりなので、めっちゃ楽しみです。
岩崎:僕は以前、鳥取で市民参加の舞台に関わらせてもらいました。温泉宿に一ヵ月逗留させていただきました。目の前に湖があったんですが、実はそこが昨年の鳥取県中部地震の震源地だったんですよ。鳥取公演の開催場所である倉吉未来中心はエントランスの壁や天井も落ちて、当時は「夏までにどうなるかわかりません」という返答をいただいていたんです。けれど、奇跡的に修繕作業も終わり、幕を上げていただけることになりました。
最後に忘れてはならないのが福島と埼玉です。ここにいるメンバーは全員福島に行くのは初めてですよね。長崎が終わってから福島に行くんだけど、土地柄も南と北で違うと思うからお客さんの反応の差が楽しみだね。
藤本:こんな小さい日本なのに、まだ知らない場所がたくさんあって、そこで演劇できるっていうのがすごくうれしいですね。あと、埼玉は東京の人がいちばん観に来やすい場所でもあるので、来てくれるといいなぁと思っています。
宮川:今回、東京のお客さんが何人か伊丹公演にも観に来てくださるみたいです。今や格安の飛行機もあるので、近場で見るも良し、ツアー一発目の伊丹で見るも良しだと思います。
■再演に向けて
岩崎:今回のキーワードは「前回をなぞらないで何か新しいことはできないか」ということです。宮川さんは初演の時もいろんなキャラクターでもののけを演じ分けることを試したんだけれど、それはまだ続いてるってことだよね。新たな方法を模索することを止めずに上演に持っていけるのがいちばんいいと思う。
藤本:2年前の時に感じたあの新鮮さはまた感じたいと思っているので、再演ではあるけれども、新作をつくっているような気持ちです。予定調和にならないように、慣れないようにしたいです。兄妹との関係とか、もののけたちとの言葉のやりとりは台本として書かれているものではあるけれど、それが今初めて進んでいるかのように、子どもたちに絵本を読み聞かせるように、やり続けられたらいいなと思っています。
岩崎:今回の再演では舞台の仕掛けが増え、ラストシーンが変わりました。前回は、舞台が盛り上がって最後はしんみりして終わる。そのあと、カーテンコールで役者が出てきてお辞儀するだけっていうのは、「子どもと大人のための演劇」としてちょっと寂しかったので、今回は俳優が歌っちゃいます。
藤本:夏休みが終わったあとの未来に続くような曲ですね。作曲家の橋本剛さんがすごく素晴らしい曲を提供してくださって、難しいけど練習し甲斐があります。
岩崎:練習が終わった後に「こんな歌い方もしたらおもしろいですね」と藤本さんが橋本剛さんにプレゼンをしていて、僕は稽古でそういう俳優を見たのは初めてだったので感動しました。「こんな歌い方で大丈夫ですかね」とかではなく、「子どもっぽく歌ったり、お母さんっぽく歌ったりできるんですよ」みたいなことを言っているところが藤本さんの“歌好き感”を醸し出していたよね。
藤本:いろいろな歌い方を試してみたいと思える、伸び代のある曲だなと思いました。『とおのもののけやしき』にぴったりの曲です。
岩崎:舞台と客席の距離もそれぞれのツアー先によって変わるから、目線なども含め、芝居の変化もいろいろ出てきそうですね。
「みんなの劇場」こどもプログラム
『とおのもののけやしき』
作・演出/岩崎正裕
平成29年7月22日(土) 11:00/15:00
7月23日(日) 11:00