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『季節のない街』山田うんインタビュー

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アイホールでは、平成29年3月18日・19日に共催公演として、Co.山田うん『季節のない街』を上演します。黒澤明監督の『どですかでん』と、その原作である山本周五郎の『季節のない街』にインスピレーションを得て創作された作品の再演について、主宰の山田うんさんにお話を伺いました。



■『季節のない街』について

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山田うん


『季節のない街』は、2012年に世田谷パブリックシアターのシアタートラムで初演した作品で、関西では初上演になります。
黒澤明監督の『どですかでん』を観て、原作である山本周五郎の小説『季節のない街』も読んで、戦後の日本に出来上がった、貧民街の暮らしと、労働と生活の中の絶望や希望、複雑な人間心理を不思議な情景で描かれている両作品からインスピレーションを得て創作しました。登場人物はみんなどうしようもない人ばっかりで、誰の子かわからないけど産んじゃった子供が6人いるとか、キャラクターを突き詰めれば突き詰めるほどカオスというか、理想と現実を埋められない、その埋められない中で不器用にしか生きていけなくて、すごく情けない、人間臭さがいっぱい詰まった山本周五郎の独特の世界です。これを物語に一本化しないで、たくさんのエピソードが同じ時間軸にあって、街に隠れた暮らしがさらされていくのが、この『季節のない街』の面白さなので、言葉がなくごちゃごちゃしたままでも成立できてしまうダンス作品が、ふさわしいんじゃないかという気がしています。
この作品は、最近のカンパニーレパートリーの中ではとても珍しいタイプです。前回、アイホールで上演した『春の祭典』はいわゆる舞踊作品としてエネルギッシュにダンスを踊るものですが、この『季節のない街』は踊るシーンももちろんあるんですけれども、言葉が充分にあるわけじゃないのに、物語を彷彿させる情景、状況の舞台で、踊りでは埋められないような感情などが、声や小さな言葉やジェスチャーとか、そういったいろいろな表情をもって展開していく異色作です。『春の祭典』はテンションが高すぎて辛いっていう人には、対照的な作品で楽しんでもらえると思います(笑)。
初演の創作は、スタジオをみんなの家や街みたいにして、即興でどんどんといろんなシーンを提案していきました。私だけのディレクションではなくて、ダンサーたちが進んでいろんなことをやって、泣いたり、わめいたり、笑ったりしながら、時には本当にケンカしたり、挫折したり、骨折したりしながら(笑)、家族なのか町内会なのかわからないような、みんなで共同生活するようにして作った、とても人間臭い作品です。
初演では演劇をされている方からも非常に評判がよかったので、普段、演劇を観ている方にもぜひ観ていただきたいなって思いますし、ダンスが身近に感じられるかもしれないです。演劇と同じように迫力があるんですけれど、迫力の種類が違うというか、観ていてザワザワすると思います(笑)。



■マレーシアのダンサー


アイホール公演の出演者は14名。男性が8名で、女性が私を入れて6名の編成です。その中でマレーシアの男性ダンサーが2名います。彼らは20代でとても若いダンサーなんですが、マレーシアはもちろん、中国、インド、タイといった、たくさんの国の伝統舞踊を踊ることができます。日本人とはかけ離れた身体能力とセンスを持ったダンサーで、異色のキャストとして活躍してくれています。
un-28-03音楽はベートーヴェンの交響曲第九番を使っているんですけど、マレーシアのダンサーたちから「なぜこのような作品の中で、こんなハイクラスの音楽を使うんですか?」と質問されました。私はそれに対して、もともと“第九”はドイツの音楽で、それを庶民に対しても紹介していこうという活動の一環として日本に渡ってきたという歴史から、ハイクラスとロークラスのギャップが作品に非常に必要なのでこの音楽を選択した、と解説したんです。これは初演の時には説明をしていなくて、今回聞かれたことで、ダンサーたちに選曲の理由、意図を話すきっかけになりました。日本人ダンサーたちは「“第九”って何?」という質問を想像してなかったと思うんです。初演では気づかなかった表現の仕方やテクニックをみんなが発見して、改めて振付の意図とか、深いところを押さえてくれている、初演では辿り着けなかった場所へ行こうとしてる、終始、そういう現場です。大きく振付が変わったところはないですが、「そういうことだったらこうも踊れるんじゃない?」とか「こんなふうに作り変えられるんじゃない?」ということで振付も前回より面白い構成を観ていただけると思います。



■季節が「ない」ということ


un-yamada_2017みんなが稽古場に冬物のセーターや、浮き輪や水着など、春夏秋冬のいろんなグッズを持ってきて、「季節がないから全部ごちゃまぜだね」と言っていたんですけど、マレーシアには季節が夏しかないので、「季節が四つもあるよね」と言われて…。「ない」っていうことを彼らとシェアすることがすごく大変で、みんなが混乱してしまい、季節をシェアするだけでも結構時間がかかってしまいました。今の若いダンサーたちがこういったことに改めて知って、話をしていく過程っていうのは傍から見ていてもすごく面白いんです。自分たちの当たり前がすごくレアだということがどんどん暴かれていくと思うんですよね。それを身体で結び付けて、想像を働かせて行動するようなことにどんどんつながっていくといいなと思っていて、今回、日々の生活の中で若いダンサーたちがマレーシアのダンサーたちとのやりとりで驚いていることに対して、もっと驚けることに気づき、出会ってほしいと思います。もちろん私自身改めて私たち日本人にしか通じない常識が多いということがわかりました。今もマレーシア人と日本人でシェアしていない常識やいろんなことを話し合ったり、意見をぶつけ合いながら創作をしている段階です。



■舞台美術・衣装について


初演の時は東日本大震災の後だったいうこともあって、美術家を迎えるということが、心理的に出来ませんでした。物が流されて壊れてなくなったので、新しいものを買うっていうことがみんなできなかった。東京は実際の被害よりも心理的なダメージの方が大きくて、何を大切にしたらいいんだろうっていうことを振り返る一年だったんですよね。私よりむしろ若いダンサーたちがそういう心境になっていました。なので、家の中にいっぱいあって、男女関係なく、夏でも冬でもオールシーズン着ていられる、季節がない服と言ったら「デニムかな」ということで衣装は家にあった履かないジーンズをリメイクして作りました。
美術も、家にあるずっと捨てられなかったような時計や、ちょっと練習したけど諦めちゃったトランペットだったり、ずっと弾いてなかったハーモニカだったり、解体している家からいらなくなったドアをいただいたり、そういった家の温もりや記憶のある物を舞台にあげていました。
今回は初演から五年経って新しい要素を「街」に入れたいな、と思って美術家の藤浩志さん、そしてファッションデザイナーの村上亮太さんに「街」のデザインをお願いしています。初演ともっとも異なる点が美術ですね。藤浩志さんは百円ショップで売っているものだったり、身近なプラスチックのゴミだったり、誰もが手にしたことのある物のマテリアルで、とてもダイナミックな作品を作られる美術家で、今回もポテトチップスの袋を使って美術を作られています。そのポテトチップスの袋が壁紙のように飾られていますが、もしかしたら最後までそれがポテトチップスの袋とは気がつかない方もいらっしゃるかもしれませんね。



■カラフルな黒


un-28-01『どですかでん』は黒澤明監督の初のカラー作品なので、色というのはすごく大事で、ダンサーの衣装はデニムなのでカラフルなわけではないんですが、「生きている色」って言ったら変なんですけど、内面に入っていない色みたいなものが、劇場の空間にあるっていうイメージで舞台を作っています。まあ映画の色って独特で、あの色は舞台では出せないですけど、でもなんか古いような、すごくカラフルだったんだけど陽に当たって焼けちゃったような、何とも言えないその色に近いものを前回は使いました。チラシにも書いたんですけど、私が考えたキャッチコピーで「嬉しい 悲しい どうしたらいい 全てを抱擁するカラフルな黒になる」っていうのが、子供の時に「赤好きなんだよね、青も入れたらどんな色になるんだろう? 緑も入れよう! 黄色も入れよう!」ってしているうちに黒くなっちゃうっていう記憶が最初の発想になっています。
初演、東京では5公演だったんですけど、三面客席だったので、毎日観に来てくださった方も結構いらして、今日はここで、明日はそこで観るってお客さんもいらっしゃいました。今回のアイホールでは二面客席なので、位置を変えるとまったく見え方が変わります。とても臨場感のある、劇場の中が全部街になっているようなそんな印象になると思います。セットが可動式なので、ちょっと動いたりすると、観たいものが観えないっていう状況にもなりますが、それも含めて演出をしているので、ぜひ土曜日、日曜日の2回とも観ていただきたいです(笑)。

 

 

【共催公演】
Co.山田うん『季節のない街』
平成29年
3月18日(土) 18:00
3月19日(日) 15:00

公演詳細 → コチラ