TOP INTERVIEW H27 break a leg
▼コトリ会議 ▼FUKAIPRODUCE羽衣 【H27年度募集要項】
break a legとは?
直訳は「脚を折れ」。これからパフォーマンスを始める人に向かって「成功を祈る」という意味で用いられるフレーズ。

AI・HALL共催事業として、今年度も<次世代応援企画 break a leg>を開催いたします。
参加する2劇団(コトリ会議、FUKAIPRODUCE羽衣)それぞれの代表と、アイホールディレクター岩崎正裕より、本企画および各公演についてお話いただきました。



◇アイホールディレクターより企画趣旨について
岩崎:<次世代応援企画break a leg>は、平成24年度からスタートしまして、今年度で3年目に入ります。
昨今、関西では、若い人たちが小さい環境の中で劇をつくることが多くなりました。いわゆる「カフェ公演」なんかがすごく多くなったんですね。大きい劇場に進出していくことが、必ずしも良いわけではないですけれども、われわれ八〇年代から演劇を始めた人間からすると、100人くらいの劇場からスタートして、200人、500人、そして東京に…というようなルートがありました。しかし最近は、自己完結型というか、小さい場所で小さい集客でやっていければいいという若いユニットが増えたような感覚がしております。それと同時に、アイホールと若手劇団の<出会いの場>というのが、意図して用意しないとつくれないような状況が出てまいりまして、そのような状況を踏まえて、この<break a leg>という企画が立ち上がりました。
この企画は、若手劇団あるいは、近畿のみならず全国的にこれから活動の幅を広げていきたいという劇団を公募するという趣旨で, 3年目の今年は、応募のあった中から、2劇団を選出させていただきました。
まず先行して、5月末から6月にかけて上演していただきますのが、「コトリ会議」。今回は2本立て公演です。オムニバスではなく、フルタイムの劇をふたつ上演するということです。
コトリ会議は、シアトリカル應典院の「space×drama」などで地力を付けられて、昨今、躍進著しい劇団です。内容的には、いわゆる対話劇というふうにご理解いただいたらいいと思います。九〇年代の現代口語演劇を脱却した、新しい対話劇を切り拓こうとしている部分と、作・演出の山本さんを中心とした集団性、山本さんの作品への期待ということで、今回、コトリ会議を選出しました。
つづく、6月7〜8日に「FUKAIPRODUCE羽衣」が上演します。今回、東京からエントリーしていただきました。
応募の映像をいろいろ見せていただいたんですけれども、「劇」として最も力を持ってこちらに迫ってくるものをつくっていたのが、FUKAIPRODUCE羽衣の作品『耳のトンネル』じゃないかなと思っております。何とも形容しがたい作品世界でした(笑)。ミュージカル的な展開なんですけども、いわゆる西洋のミュージカルとは全く違うもので…。歌が劇中にあるんですが、それが劇性を高揚させていく、ということとはちょっとズレていて、妙な「おかしみ」みたいなものがあるんです。ご自身たちは「妙ージカル」と仰っているらしいんですけど、これは主宰の深井さんにお話を聞かないとわからないところがあると思います(笑)。ただ空間構成と俳優の力においては、やはり安定した力を持っているということがよく伝わってきましたので、今回、選出させていただきました。
ぜひ、広く関西の方たちに観ていただきたい2劇団です。

■コトリ会議『はなの台ふき』『おなかごしのリリ』について
山本:コトリ会議の代表を務めております、山本正典といいます。よろしくお願いいたします。
コトリ会議は2007年に結成をしまして、第2回目以降はすべて、僕の作・演出で公演をしております。コトリ会議は、小鳥が電柱の上から、現代の人間の生活を眺めてチュンチュンしている、という意味で付けました。僕が脚本を書くようになったキッカケというのが、劇団八時半を主宰していた鈴江俊郎さんの一言でした。劇団八時半の最後の公演に、役者として出演させていただいたときに、鈴江さんから「これから芝居をやっていくのであれば、脚本・演出を担当して、自ら芝居をつくってみなさい」と言われました。ですので、鈴江さんに影響を受けて始めた劇団なので、どうしても劇団八時半的な色が強いといろんな方に言われて…僕としてはそれがとても悔しいので、そこから脱却しようともがいているところです。劇団員は、現在、僕も含めて5名おります。大体みんな30代の、同年代で構成されています。
実は僕たちは今まで、<break a leg>に過去2回とも応募しています。アイホールは、若手を育てることに非常に力を入れてくださっていると感じていましたので、僕たち若手劇団がステップアップししていくために、まずアイホールでやらせていただいて、そこから次の展開を考えていこうと、劇団で話し合って応募してきました。
今回は、2作品を上演させていただきます。僕が今、31歳という年齢ということもありまして、家族が亡くなったり、親しい人が亡くなったりということがあって、「生き死に」のことについて改めて考える時期に来たと感じています。いろいろな自然災害が起こって、否が応にもそういったことを考えざるを得ない状況の中で、「生き死に」に対して自分がどうやって向かっていけばいいのか、心構えをつくっていけばいいのか、ということをテーマにした作品をつくることにしました。このテーマを、「生きている人たちの話」と「死んでしまった人たちの話」の、ふたつの側面からつくっていこうと考えています。
まず、『おなかごしのリリ』という作品に関してですが、こちらは、登場人物たちが集団自殺をしてしまったという設定です。登場人物たちは幽霊のような形で存在して、会話をしていくことになります。小さい頃から、「人は死んだらどうなるんだろう」ということを考えていたんですが、最近、「死んだ人にはこうなってほしい」という願いというか、自分なりの宗教のようなことを考える機会が多くありました。亡くなった人たちに語らせることで、「死後の世界はこうなってほしい」ということを僕なりに提示しようと思っています。
つづいては『はなの台ふき』に関してです。先に『おなかごしのリリ』を考えていて、もうひとつの側面は、「生きている人の対話劇」にしようというのがまず頭にありました。そこから、何をテーマにしようか悩んでいるときに、今、新型うつ病というのが精神科医のあいだで問題になっているということを、中島聡さんの著書『「新型うつ病」のデタラメ』で読みました。そこでは、新型うつ病というものを病気として定義してしまうと、そう定義された人が社会で保障を受けて、それで生活できるので、どんどん働かなくなってしまう、という問題があると書かれていました。病気だと定義されてしまうと、甘えも生じてしまうのではないか。どこまでが甘えで、どこまでがそうではないのか、今の人たちはもっと考えなければいけないのではないか、ということを中島さんは仰られています。「病気」と言われたときに、果たして自分はどのように向かっていけばいいのか、僕もそれについて考えながら、その問題を、家族の話の中で描いていこうと思っています。

■FUKAIPRODUCE羽衣『耳のトンネル』について
深井:FUKAIPRODUCE羽衣の主宰・深井順子と申します。
FUKAIPRODUCE羽衣の結成は、2004年です。私は主宰で、作・演出は糸井幸之介という男性です。私と糸井くんは、高校の演劇部の同級生で、そのときから、彼のことを「すごく面白い人だな」と思っていました。高校を卒業したあと、彼と一緒に日本大学芸術学部演劇学科に入って、「劇団劇団」という劇団をつくったんですが、仲違いをしちゃって、その劇団は解散したんです。でも、「この人はやっぱり天才だから、一緒にやっていきたい」と思って、私が主宰になってつくったのが、FUKAIPRODUCE羽衣です。今は劇団員は男女半々の比率なんですが、最初、私がFUKAIPRODUCE羽衣をつくったときは、女性だけの劇団にしようと思っていたんです。なので、「天女」…「羽衣」という連想です。あと、よしもとばななさんが私はすごく好きで、彼女の作品に『ハゴロモ』という小説があるので、そこから付けました。うちの劇団は、「妙ージカル」=「妙なミュージカル」と銘打ってやっているんですが、普通のミュージカルではなくて、歌詞が面白いというか、変テコリン(笑)。「♪あなたを愛しているわ」ではなくて、「♪お風呂って気持ちいいわ」というのをずっと歌い続けるとか…。それで、ちょっとホロリとする(笑)。およそ、ポピュラーミュージックの文脈にはない歌詞ですね。
今回の作品『耳のトンネル』は、ある男性の、生まれてから死ぬまでの一生を描いています。この作品は再演なんですが、初演のときは、主人公が大人になってからが混沌としてしまったという思いが糸井くんにはあったようです。その後、同年に糸井くんが「ぐうたららばい」というユニット名でKYOTO EXPERIMENTに参加してつくった『観光裸(かんこーら)』という作品があります。それは、男女が不倫旅行に出かけた先で小学校に迷い込んで、そこで遊んで帰るというだけの話なんですが、今回、『耳のトンネル』に入れ込んでひとつの作品にします。『耳のトンネル』は、少年期、青年期、中年期という構成になっていて、その中年期のときに、男が不倫するエピソードが『観光裸』。元々そういう形でつくった話ではないんですが、書いてみたら『耳のトンネル』ととても合ったので、入れ込むことになりました。なので、上演時間が2時間半と長くなっちゃいます(笑)。
男の一生を歌で表現して、小さい頃には小さい頃の歌、大人になったらちょっとエロい歌、最後は「俺、成長したから、おっぱいより今はお尻のほうが好き」という歌で終わる。すごく素敵なんですよ、伝わりにくいですけど(笑)。
あと、舞台セットが面白くて、耳の穴が舞台にポンと置かれてます。初演はこまばアゴラ劇場だったので、少し小さめだったんですが、今回アイホールでやれるということで、もっと大きめの耳を用意します。
出演者は、全部で14名、うち、劇団員は5名が出ます。それから、(ミジンコターボの)Sun!!さんや、歌人として有名な枡野浩一さん、元アイドルだった並木秀介さん、それから『観光裸』にも出演していただいた内田慈さん、などに出ていただきます。
今回、<break a leg>に応募した動機なんですが…、去年、初めて地方公演として大阪と香川で公演をやらせていただいたんです。すごく温かく迎えていただいて、香川なんて終わったあと、女性のお客さんに涙を流して「ありがとう」と言われて…。そんなことが生まれて初めてだったので、全国でどんどんやって、いろんな人にいろんな場所でFUKAIPRODUCE羽衣を観ていただきたいと思いました。それで今回、チャンスだと思って、応募させていただきました。今後は、いろんな人に観ていただいて、この「妙ージカル」を知っていただきたいです。面白くて楽しいことを舞台上でがむしゃらにやっている姿を生で観てもらうことで、この世の中は思ったよりも希望があるんだぞ、ということが伝わって、勇気が出て、元気が出るお芝居です。
岩崎:深井さんは、じつは唐組出身なんですよね。
深井:そうなんです。私は高校生のときに唐十郎さんのお芝居を観たんです。大好きになって、ひとつの公演を9回も観に行って、唐組に入って、演出助手もやり、4年在籍しました。
岩崎:そのエネルギーは、FUKAIPRODUCE羽衣に通ずるものを感じます(笑)。
深井:私は高校生の時は演劇部で新劇を中心にやっていて、「演劇って難しいなあ」と思ってたんです。そんなときに唐組を初めて観て、劇中で唐さんが水槽から出てきたときに、「大人ってこんなに自由でいいんだ!」と思って。「自由である」ということを、唐さんに教えられたと思います。今も、唐さんに観てもらいたくてやっているところがあります。

■質疑応答
Q.コトリ会議のタイトルは、それぞれ、どういう意味で付けられたんですか?
山本:『はなの台ふき』のほうは、舞台設定が家なんです。なので自分の実家にあって、母親がよく手にしていたものとは何だろうと考えたときに、母親が「花柄の台ふき」でテーブルを拭いている光景が浮かんだんです。それで、『はなの台ふき』としました。『おなかごしのリリ』のほうですが、「リリ」というのは電話の音です。登場人物として、お化けのような半透明の人が出てくるんですが、その半透明の人のお腹が透けた先に電話があって、それが鳴っているんです。亡くなった人にかかってきている電話だと思うんですが、その人はそれに触れることが出来ない、ということを考えて付けました。

Q. FUKAIPRODUCE羽衣の「妙ージカル」は、どのような曲調なんですか?
深井:劇中でたくさん曲が入るんですが、いろんな曲調があります。男女がやりとりしている台詞風の曲もありますし、主題歌みたいなガッツリした曲もあります。踊りもあるんですが、クラシックバレエを中心とした身体でもないし、コンテンポラリーダンスの文脈でもないんですよね…だから妙なんです。雰囲気としては、放送コードが入らないNHKの『みんなのうた』(笑)。ちょっとエロティックなのも入れたがる。
岩崎:あんまり今まで演劇って、艶っぽい話をやってこなかったなという感じがして…、僕が観て思ったのは、深夜ラジオを聞いているみたいな、思春期の少年みたいな気分になりましたね。