現代演劇レトロスペクティブ
sunday『友達』
壁ノ花団『そよそよ族の叛乱』
   
ディレクターズ・ノート

条理劇を定義する方法を私は持ち合わせないが、私たちが生きる現代社会と、過去に書かれた不条理劇との親和性は、かつてよりも高まっているのではないか。

何も凡庸に、3.11以降の日本の風景をしてそのように語るつもりはない。震災を引き合いに出せば、現実感の喪失は神戸でも既知のことであるし、 もっと遡れば一瞬にして数万人の命が灰となった暴力を、私たちは知っている。当然のことながら、第二次世界大戦後の荒廃した精神の土壌からベケットもイヨネスコも不条理劇にたどり着いたのであった。本来この作法は、ある事象や事件に出くわしたときの「わからない」という感覚に由来して成立するはずだ。

ところが、今を生きる私たちは、どんな不可思議に直面しても、どこか「ありそうだな」という感覚から 出発してしまってはいないだろうか。

回、現代演劇レトロスペクティヴでは、日本の不条理演劇のパイオニアである二人の作家の作品を取り上げる。安部公房の『友達』に登場する疑似家族・偽家族からは、尼崎で近年起きた連続殺人事件を想起することも可能だろうし、別役実の『そよそよ族の叛乱』からは、登場人物たちの心性において、STAP細胞の真偽に関わる人々の右往左往を導き出すことだって出来る。

もちろんそんなステレオタイプな切り口で上演されるはずはないが、私たちはすでに不条理な日常を生きてしまっているだろう。反転してそれを劇の萌芽と捉えるなら、真のリアリズムの到来ではないか。わからないはずの不条理を、わかってしまう私たちは、果たしてふしあわせな時代に立っているのだろうか。

アイホールディレクター  岩崎正裕
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現代演劇レトロスペクティヴとは

2009年度からアイホールが取り組んでいる「現代演劇レトロスペクティヴ」は、1960年代以降の、時代を画した現代演劇作品を、関西を中心に活躍する演劇人によって上演し、再検証する企画です。現代演劇の歴史を俯瞰し、時代に左右されない普遍性を見出すとともに、これからの新たな演劇表現の可能性を探ります。

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