平成24年9月13日(木)~16日(日)に、関西を拠点とするパフォーミング・アーティストとの共同製作事業“Take a chance project028”において、
contact Gonzo サウンド・パフォーマンス『Abstract Life《世界の仕組み/肉体の条件》』を開催します。殴り合いともダンスともつかない身体の接触、即興的なパフォーマンスが持ち味のcontact Gonzo。ただ、今作は、舞台にパフォーマーは現れません。音などの仕掛けによって、そこにいない身体を感じさせる実験的なサウンド・パフォーマンスで、音空間を体感する作品となっています。上演に先駆けて、contact Gonzo主宰の塚原悠也さんにお話を伺いました。
(聞き手/アイホール ディレクター 小倉由佳子)
■パフォーマーの出ないパフォーマンス
—————前回の“Take a chance project”での公演、『Musutafa United V.S. FC Super Kanja』では、「戦い」ということをキーワードに総勢20人以上のパフォーマーが出演する作品でしたが、今回はパフォーマーがひとりも出演しない、音だけの作品になるんですよね?
はい、そうです。舞台芸術という発想から、かなり離れているのかもしれません。録音物の再生であっても、何か「パフォーマンス」と呼べるものが作れるのではないか、というのがモチーフです。いつも僕らがやっているパフォーマンスで発する体の音や、何かが人にぶつかる音、森のなかで穴を掘っている音や、水中の音などを録音しています。今、8カ所くらい、例えば宝塚の山奥や京都の清滝、丹後、鞍馬山などに出かけています。映画の作り方に似ているのかもしれないけど、いろんなところにロケにいって録音をして、それを編集して、景色を繋げていくような作業です。
—————どういうところから、このような音だけの作品を発想したのですか?
音作品は、以前に京都芸術センターでも発表(*1)していて、その時は8つのスピーカーを使って、自分たちのパフォーマンスの音が繰り返し流れ、時々、ペットボトルの転がる音が立体的に聞こえたりするようなものでした。ただ、展示空間となったギャラリーは小さく、これをもっと広い劇場で、スピーカーもたくさん使ってしっかりやれば、もっと面白くなるなと思って温めていた企画でした。
*1=新incubation2 「Stelarc×contact Gonzo – BODY OVERDIRVE」展(京都芸術センター・2010年)
僕らのパフォーマンスって、いろんな音がしているんだけど、視覚的に観ることが多くて、聴覚を使うことは少なかった。一回、ちゃんと自分たちの音を聴いてみたかったということもあります。僕は劇場でスタッフとして働くこともあり、舞台でも体の動きは、気配というようなものも含めて、かなり細かいところまで見ていると思うけど、音に関して言うと、正直、なめていました。梅田(哲也)くんや鈴木昭男さんなど音を扱うアーティストや、今回、参加してもらうミュージシャン・音響エンジニアの西川文章さんたちと話していると、僕らが普段の生活でカットしているような情報の向こうまで聴いているように感じたんです。そこに着目すれば、もっと世の中が立体的に見えるのだろうと確信していたので、一度、音に特化した作品をつくって、自分たちの耳を鍛えたり、逆説的にお客さんに聴覚から「体のあり方や感触」などを感じてもらいたい、感じられる作品ができるはずだと思いました。
西川(文章)さんの良い録音は、聞くと臨場感が出ていて、いわゆる映画のドルビーシステムとは、また違う存在感があって、「ここに人がいたんだな」、「こういうふうに人と何かが接触したんだな」というようなことが、すごく見える。そんな感覚を経験していたので、そういうものを劇場での音作品として製作したいと思いました。京都芸術センターの展示では、まだできなかったことを達成したいと思っています。
—————サウンド・パフォーマンスという言い方は?
悩んだのですが、初めは、京都芸術センターでの展示作品と同じように、出入り自由のいわゆる「展覧会形式」がいいかなと思いました。
以前の展示では僕らがパフォーマンスをやった音をそのまま流していたんですが、今回は「編集」というのがポイントで、いろんなところで録音してきたものを、切り貼り、構成するのが重要になります。何をどう聴かせるかという配置の問題や前後の文脈など、どういうふうに繋ぐのか。映画のようであり、舞台であるような構成があります。起承転結もあると思うので、その作業をするのだったら、客席もあって「コンサート、劇場形式」の開演時間があって終演がある、というのがいいと思った。最終的には、ひとつの舞台や映画を見終わったような感覚を生み出したい。
アイホールの企画で、劇場という場でこの音作品をどういうふうに発展させていくかを考えて、リアルな身体が出て来ないとしても、その強度に負けない作品をつくるということで、敢えて“サウンド・パフォーマンス”という呼び名に決めました。
—————録音にいろんなミュージシャンにも協力してもらっていますね。
テニスコーツの植野さんにギターを弾いてもらったり、柔術を教えてもらったり。梅田(哲也)くんも一緒に録音に来てくれたし、鈴木昭男さんの丹後にある作品の中で録音もしました。
■“Take a chance project”での上演について
—————今回が2作目の本プロジェクトでの発表になりますね。
今回は、たぶん、今までのcontact Gonzoの活動の中では、かなり異色な、雰囲気の違う作品になると思います。せっかくの“Take a chance project”という機会なので、可能性を広げる、リスクをかけた作品を3回ともやりたいなと考えています。今回、昨年以上にリスクをかけて、自分たちにとって挑戦的なことをやります。まず、人が出ないということ。それを劇場でやる意味があるのかなど、いろいろ言われる可能性があることをやる。そんな状況のうえでも、それを乗り越えてやるというのが、長期的に見て、カンパニーにとって良いことのはずです。いろんな作家やミュージシャンの歴史を見てみると、例えば、ソニック・ユースもある時期めちゃくちゃ実験的なものをやっていたり、ルー・リードもいきなりノイズアルバムを出したり、そんなことを知っているとそんなに不安はない。コケるのは嫌だけど、この作品が10年後に意味をなすと思います。
—————このTake a chance projectを始めた、前プロデューサーの志賀玲子さんがよくアーティストに「失敗しても、とにかく、前のめりに倒れてください」と言っていたので、それはこの企画趣旨にあったことをやろうとしていると思います。
劇場というバックアップがあるのが本当にありがたい。だからこそ、振れ幅を大きく持てるはずなので、観客に受けることだけを目的にせずにやりたい。
今回は、「ある記録物を編集再生することで何が見えるのか?」ということがポイントになっていると思います。でも、最後の本当の「再生」はお客さん自身に委ねたい。イメージを観客自身が持つことができるかどうか、ということがすごく大切だと思っています。僕らのパフォーマンスは、受け身ではなく、観客の能動性も必要とするものです。
■<いたみ・まちなか劇場>での写真展について
—————同時に開催する写真展はどんなものになりそうですか?
普段だとなかなか入れない、劇場の3Fギャラリーで展示します。パフォーマンスの前や後で見てもらえるようにしています。
被写体は自分たち自身。今回のための録音をしている場で撮影したものもあります。身体を意識し、僕らの世界を構成している活動、核となるようなものが写真から見えてくるといいなと思っています。
【AI・HALL自主企画】
関西を拠点とするパフォーミング・アーティストとの共同製作事業
Take a chance project028
contact Gonzo サウンド・パフォーマンス
『Abstract Life《世界の仕組み/肉体の条件》』
総合ディレクション・構成・演出:contact Gonzo(塚原悠也、mikahip-k、金井悠、松見拓也、小林正和)
録音・エンジニアリング・編集:西川文章
2012年9月13日(木)~16日(日)
公演の詳細は、こちらをご覧下さい。 → こちら
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今作は、アイホールの後、KAAT神奈川芸術劇場での公演もあります。先鋭的な舞台が揃ったフェスティバル「KAFE9」に参加。こちら のウェブサイトにも、塚原さんのインタビューが掲載されています。