平成24年12月14日(金)~16日(日)に、関西を拠点とするパフォーミング・アーティストとの共同製作事業“Take a chance project029”において、きたまり/KIKIKIKIKIKI『結婚』『戯舞』を上演します。彼女が率いるカンパニー、KIKIKIKIKIKIにとって、今作が“Take a chance project”の3作品目、シリーズの集大成となります。総勢22名のダンサーと共に、方向性の異なるアプローチの2作品連続上演=ダブルビルに挑戦します。
ひとつめの作品は、ダンスの古典楽曲ストラヴィンスキーの「結婚」を使用し、新振付を行います。1920年代 にニジンスカが独創的な振付をしたこの楽曲を、今、どのように解釈してダンスを立ち上げていくのか。 テンポの激しい音楽とダンス、そしてダンサー間の関係性に注目していただきたい作品です。またもう一作は、念仏踊りや神楽等から着想を得て、「現代の民俗芸能」を模索した作品です。
今回、公演直前のきたまりさんにお話を伺いました。
(聞き手/アイホール ディレクター 小倉由佳子)
■2作品連続上演=ダブルビル、『結婚』は群舞、『戯舞』は群衆
今回の2作品は、コンセプトが全く違うし、さらに出演者も分けていてそれぞれ違うし、本当に大変です。正直、ちょっと「しまった」と思うようなことに挑んでしまいました。
『結婚』は群舞、『戯舞』は群衆。見ていただくと分かると思うのですが、表に出てくるものは全然違うけれど、やっぱり、2作品のなかで目指す身体性になにか共通点があるのではないかと稽古をしながら思います。どちらも自分の身体を客観視して明確にしないと他の人と合わせることはできなくて、意識も技術も必要となり、ダンサーにとってとても難しく大変な作業を強いていますが、その中で自由になって欲しいと思っています。
■ストラヴィンスキー『結婚』について
大学生の頃、ニジンスカの『結婚』のビデオを見て衝撃を受けたときからずっとやりたいと思っていました。最初、10人くらいのダンサーなんですが、途中から人がどんどん出てきて、最終的に40人くらい出ているんじゃないかな。今まで見ていたバレエのイメージを超えていました。バレエって華やかなもの、派手なものしかないと思っていたけど、違うものだった。
今回、男性6人、女性7人、合計で13人という構成で、カンパニーメンバーの花本有加さん以外、バレエ経験者は少ないです。20歳前後の若い出演者もいて、筋肉もつきやすいし可能性があって鍛えがいがあります。体が変わっていくから稽古をしていて面白いです。
—————上演時間が24分ということで、踊っているダンサーも観客も休む間もないくらい集中して、密度の高い時間が体験できそうですね。
振りのベースはみんなユニゾンで、シーンによって変えている部分はありますが、男性は男性、女性は女性で基本的に同じ振付けで踊ります。このような群舞の振付は初めてで、身体が音楽と拮抗するように考えました。ここまで細かく動きを指定して振付をするのは本当に久しぶりです。前作の『ぼく』(2011年)は、約束事やルールを決めた上で出演者に委ねる部分が多く、『生まれてはみたものの』(2010年)は、間合いなどは出演者が決めているところがあり、動きと動きの時間がもっとゆったりしていました。それに比べて『結婚』は、動きを詰め込む振付です。ストラヴィンスキーの『結婚』は、曲のテンポがとても速くて激しく、そして変調していくので、それに追いついていく身体は本当に大変です。普段使っていないところを使うので、最初はみんな筋肉痛がひどかったです。やっと慣れてきたと思いますが、ずっと体を緊張させて踊っているから疲れているでしょうね。
—————物語としては、どのように扱っているのですか。
ニジンスカの舞台では、主役の新郎新婦役がいて、その両親も登場してという具体的なシーンがあるのですが、今回は、結婚式に集まった男女、友人達、いつか結婚するかもしれない男女というところに置き換えた設定にしています。具体的に○○役というようなものはないです。今回は、バレエ的な動きも多く、今までの作品とは違った印象だと思います。自分自身、「私って、こういう作品をつくるんだな、こんな振付をするんだな」と思ったりします(笑)。でも私のこれまでの振付は、いわゆる「コンテンポラリー」なのか、とも思います。かと言って、もちろんバレエでもないし、「コンテンポラリーな振付」って何だろうと考えています。
■今の時代をどう描くか 『戯舞』
—————きたまりさんの舞台は、「鳥獣戯画のよう」と評されることがありますね。
「戯曲」とか「戯画」とか、「戯○」というのは、文字や絵で何かを描くという意味があると思うのですが、私はダンス(舞い)でそれを表現しようと思い、造語ですが『戯舞』とつけました。
在籍していた京都造形芸術大学の授業で古典や民俗芸能と出会ったというのが大きいです。「日本芸能史」という授業が大好きで、自分でもいろいろ調べました。全然、鳴らなかったですけど小鼓も実際に打ちました。ようやく、今になって楽譜の読み方が分かりましたけど(笑)。
あと、舞踏をやっていたので、日本の芸能に多い、重心が低い踊りが好きなんです。西洋のもの、『結婚』なんかとは正反対ですね。リズムも、カウントの取り方も違う。『戯舞』は、具体的な意味の込められた振りをつくろうと思っています。
—————古典芸能や民俗芸能にしてもいろいろあると思うのですが、どんなふうに創作を始めたのですか。
お祭りで踊っているような民俗芸能も、能とか歌舞伎などと繋がっていて、調べていくうちにどんどん広がってきました。「これをやっていたら、これもそうだったか」と発見が多くて、収拾がつかなくなっています(笑)。
具体的には、「鞍馬の火祭り」などの楽譜を使って試していて、楽譜には「テンツクツクツク」というように言葉で書かれているのですが、声を使って表現し、そのリズムで体を動かすというところから始めました。
ほかにも、日本の神話でよく出てくる「海の神」「山の神」「水の神」みたいな配役をして、エチュードをやってみたりしています。創作方法としては、あるルールのもとに即興を繰り返した前作『ぼく』に似ていると思います。ひとつひとつの動きに、「こうしなければならない」という必然性を考えて創っています。ダンスは、曖昧にしようと思ったら、いくらでもできてしまうので。最終的には、静寂から始まって祝祭的なうねりへと展開していき、22名全員で踊る壮大な雰囲気のステージにしたいと思っています。
■“Take a chance project”での上演について
振付・演出に専念して創作できたことは大きかったです。もう、カンパニー作品をつくるときには、「自分は出演しない」スタイルにしようと思いました。私は来年2月に30歳になります。20歳で始めたKIKIKIKIKIKIは10周年を迎えます。それもあって、今回の上演は本当にひとつの節目になるので、これまでのアイホールでの創作の結晶をお見せできればと思っています。今回の作品で出会った総勢22名の出演者から、曖昧なものを排して、動くことの必然性が浮かび上がり、「そうならずにはいられない身体、そうせざるをえない身体」が立ち上がることを願っています。
Take a chance project023
『生まれてはみたものの』
2010年3月
映画監督の小津安二郎が示した人間性、身体感をモチーフにした作品。制圧された記号性のある身体から、制圧できない身体への移行。生まれて、生きて、死ぬ。人生のその時間のなかで、他人との関係性を求めながらも孤独を感じる人々の姿を滑稽に描いた。
Take a chance project026
『ぼく』
2011年6月
関西で活躍する男優7名が出演し、それぞれが「自分は誰なのか」ということを延々と提示する作品。「今、ここにいる自分と過去、未来」を決められた構成のなかで即興を重ね、物語を展開していく。「存在すること」をただ、ひたすらに証明する男達の舞台。
【AI・HALL自主企画】
アイホールダンスコレクションvol.69
関西を拠点とするパフォーミング・アーティストとの共同製作事業
Take a chance project029
きたまり/KIKIKIKIKIKI
『結婚』『戯舞』
出演:野渕杏子、花本ゆか、今村達紀、大谷悠、尾場瀬華子、河井朗、木下出、熊谷祐子(青年団)、小坂浩之(KDC)、佐伯雄司(劇団レトルト内閣)、坂下七海、坂下美波、住吉山実里、田村興一郎、富松悠、葉丸あすか(柿喰う客)、日置あつし(SUGAR&salts)、御厨亮(弱男ユニット)、ミスター、山口惠子、山田裕貴、吉川なの葉
2012年12月14日(金)~16日(日)
公演の詳細は、こちらをご覧下さい。 → こちら
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*バレエ・リュスを専門とする舞踊研究家、芳賀直子さんとの『結婚』を巡る対談が、ダンスの情報を発信するウェブサイトdance+に掲載されています。こちらもぜひ一読ください。
http://www.danceplusmag.com/c1/9926