2009年度からアイホールが取り組んでいる「現代演劇レトロスペクティヴ」は、1960年代以降の、時代を画した現代演劇作品を、関西を中心に活躍する演劇人によって上演し、再検証する企画です。現代演劇の歴史を俯瞰し、時代に左右されない普遍性を見出すとともに、これからの新たな演劇表現の可能性を探ります。

先行世代の戯曲と、新進のカンパニーが出会うことを企画趣旨とした現代演劇レトロスペクティヴは本年度で6回目の開催となる。これまで60年代戯曲や日本の不条理演劇などのテーマを設けて、その年ごとの特色を出すことに努めてきた。今回は企画趣旨に一旦立ち戻って、二人の演出者主導で作品を選択してもらった。演出を担当する蟷螂襲さんと笠井友仁さんの年齢には20歳ほどの開きがある。先行作品に対する眼差しにも自ずと違いが表れるだろう。
笠井友仁さんのエイチエムピー・シアターカンパニーは、68/71黒色テント初演の『阿部定の犬』(作/佐藤信)を取り上げる。めくるめくアングラ文体が虚構の昭和11年を映し出す。笠井さんは近年、海外戯曲の上演によって高い評価を得ているが、かつては岸田理生作品に取り組んだ実績もある。これまで見たことのない戦前の風景が現出することを期待したい。
蟷螂襲さんのPM/飛ぶ教室は木冬社初演の『とりあえず、ボレロ』(作/清水邦夫)を上演する。追憶の場所として設定された写真館は、過去と現在を往還する装置となり、二人の女性の葛藤を炙り出す。ミステリーの味わいもある清水邦夫戯曲の王道とも云える作品。丹念に台詞を織りあげる劇作家でもある蟷螂襲さんとの相性は抜群だろう。
今回、2作品に共通して「写真」に纏わる場面が現れる。昭和という時代が宿命的に背負った影の部分がネガであるなら、反転したポジの、明るい狂躁の平成を我々は生きているのかもしれない。いや、この比喩さえもう成立しないのか。いずれにせよ演劇は、デジタルに侵略されない地平に、今も屹立しているはずである。

アイホールディレクター 岩崎正裕

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